零の旋律 | ナノ

V


 榴華はそういいながら我が物顔で椅子に座る。隣の席を柚霧に勧めるが、柚霧はそれをやんわりと断る。

「やっぱり銀髪だったのか」

 斎はそういいつつも、最初からこの罪人の牢獄支配者からの情報だと気がついていた。ただ――それでも確認しておきたかった。

「最初っからわかっているんなら自分武器向けるなや」
「わかっていてもこれは確認。榴華がこの街の支配者である以上、白き断罪と出会ったことそんなことがあって泉の耳に入らないわけがない」
「大分、泉さんを信用しているんやな」

 榴華の口調には合わないように思える敬称を泉だけにつける。

「情報屋としての腕は確かだからね」

 斎は唯、事実だけを述べる。それは泉を仲間だと思うから情報の腕を信じているのではなく、情報屋としてのこれまでの実績があるから信用しているのだった。

「まぁ、そうなんよねぇ。銀髪んと比べたらどうなるかはわからぬけど」
「あれは別次元だろ」

 罪人の牢獄支配者――銀色の髪をし、本名を呼ばれない存在を思い出す。目的や行動全てが――不明瞭な点が多い支配者。
 別次元と篝火が称したのは、罪人の牢獄支配者の全貌を知らないから。何の目的があって、理由があって此処を、罪人の支配者をしているのか――この廃れた大地に身を置くのか、そして何故出会ってから容貌がたいして変化しないのか。存在そのものが謎に包まれている。そのことを以前不思議に思い自分より長く罪人の牢獄にいる、第二の街支配者雛罌粟(ひなげし)に問うたことがあった。その時の返答は「我がこの牢獄に来てからずっとあのような相貌だ」というものだった。

 年月がたとうとも――老けることもなく、そのままの容姿を保っている。
 故に実年齢すらわからない。

「まぁ、別次元だとしても、あいつはあいつだよ」

 朔夜はそう纏めた。それだけは変わらないから。


「まぁ、比べちゃあかんな」

 朔夜の言葉に榴華はあっさりと同意する。
 銀髪を自分たちと“同じ”と見るには規格外のところが多すぎた。だから榴華も比べる対象ではないと。

「だろ」
「銀髪んが、白き断罪のことを気にするんわ、あれの物語を描く上で、不必要な――想定外な出来ごとなのかもしれんな。いや、白き断罪を抹殺するんも、ひょっとしたら想定内の予想の範疇での出来ごとなにゃもしれんけど。でもまぁ、あれの思考や思惑は置いておいて。自分は自分たちの街が滅ぼされるんのを、黙って見ている気はないん。だから――自分らも手伝ってくれるよな?」
「んなもん、態々ここに来なくたって俺らは俺らでやっているとは思わなかったのか?」
「勿論、思ったよ。特にサクリンはこの街を愛しているからなぁ、けど念には念を入れてな」

 サクリンと呼ばれた朔夜の機嫌はさらに悪くなる。
 第一の街支配者はこうも人に変な名前をつけて呼びたがるかが理解出来なかった。
朔、と名前の夜を省略して呼ばれることはあった。しかしサクリンと本来の名前より長くして呼ぶ必要性を感じなかった。あだ名だとしても、朔夜はそれを気に入らない。女のように聞こえる呼び名にはむしろ嫌悪を感じる。別段、女と間違えられることは怱々ない。しかしサクリンと名前だけを聞いた相手が勝手に女だと間違えられたことはあった。

「なら要件は終了だな、よし帰れさらばさようならまたいつの日か」
「うわっ酷っ、ここ自分支配している街なんやけど」
「なら下剋上を全員でしにいってやる、消えろ」
「自分の好きなことは、そういう誰の立場だろうが自分は突っかかるところだと思うや。じゃあ、そろそろ帰るわ、いこ柚霧」
「はい、それでは急にお邪魔いたしました」

 そそくさと言ってしまう榴華とは対照的に入ってきたとき同様に柚霧は丁寧にお辞儀をしてから去っていく。

「なんで柚霧のような礼儀正しい人が、此処にいるんだろうな」

 ぼそりと素朴な疑問を篝火は口にする。



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