零の旋律 | ナノ

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「お久しぶりですね。篝火さん、朔夜さん、斎さん」

 柚霧は礼儀正しくお辞儀をする。
 明るいオレンジ色の髪の毛は榴華とは違い短く肩で切りそろえられている。黒い瞳が愛らしく微笑む。
 歳は篝火たちより幼く見え女性より少女といった方が良いくらいだが、実年齢は篝火と同じ二十一歳である。

「お久しぶりです、榴華に柚霧さん」
「ちょ、待てや。篝火はん、何故に自分は呼び捨てでタメの柚霧には敬称つけるんよ」
「いや、だって柚霧は礼儀正しいから、ついつい」
「言い返せんのが酷いわー」
 
 街の支配者に敬意の一つも示さない篝火たちを榴華は唯笑っているだけだった。

「で、要件は何だ?」

 いきなりの訪問に聊か機嫌が悪い朔夜はとっとと帰れと云わんばかりの様子だ。その態度が露骨に表れていても、榴華は気を悪くした様子は一切ない。

「酷いなー、要件なんや云わんでも自分わかっとるやろ?」
「……」
「最近の殺戮者――白き断罪を抹殺して欲しいんや」

 榴華のその言葉に斎は反応する。一瞬ともいえる速度で、袖口から札を取り出し榴華の間合いへと入り込む。腕を伸ばし、斎より五センチ程高い榴華の首元に当てる。鋭い眼光と武器が榴華を見据える。

「何の真似やいイツン」
「イツンと呼ぶな」
「自分何をしているんか、わかっとるん?」
「……それはお前だろ榴華、何故白き断罪という名称をお前は知っている」

 斎の眼光は鋭く、返答次第では榴華を殺す――という意が込められている。
 榴華は笑みを消さず、斎を見ている。

「自分も白き断罪って名称知っていたんやな。でも、なら余計に何故や? 自分が白き断罪を知っていたらいけんのかい?」
「あぁ。だっておかしいだろ。白き断罪と相手が名乗ったのは、白き断罪と直接出会った俺たちだけだ。宣戦布告された俺たちだけだ。そして、そのことを榴華には教えていない。なら、何故知っている」
「知っていておかしなことは何もないんやんの? だって君らだけが白き断罪に出会っていないわけやないやろ?」

 余裕の笑みをこめならが榴華は云う。
 正しくその通りであったが斎の符は一向に榴華の首元から離れようとはしない。

「いいや会っていないよ」
「なんで断言できるん?」

 斎は、一瞬の間をおいて口を開く。

「泉か郁からそんな話を聞いていないからだ」

 その口調は有無を言わさないような断言だった。

「……」
「泉の元にそんなことが情報としてあったのなら、今日この場にすでに郁は新たな情報を見つけたとでも言って来ているはずだ。対価は払っていない――けれど、その程度の事なら、泉は郁に教えるだろう」
「……流石やな、札放し」

 斎は榴華の言葉に素直に従いしまう。但し札はいつでも取り出せる状態にしている。 榴華も知っていたが、それでも何も言わなかった。

「銀髪んに聞いたんよ、自分らは」


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