零の旋律 | ナノ

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「ごちそうさまでした」

 程なくして夕飯を食べ終える。

「郁はどうするんだ? 泊まってくか?」

 雑魚寝なら昨日と同じように出来るぞ、篝火はそういう。

「そうだな……いや、今日は帰るよ。兄貴に入らぬ心配はかけたくないからな」
「そうか、気をつけて帰れよ」

 篝火は立ち上がり玄関まで進む郁をそこまで送ろうとする。
 一方の朔夜は椅子に座ったままだ。

「郁に気をつけても何もないだろう」
「もう夜だし、白き断罪が街をうろついている以上用心することにこしたことはないだろう」
「郁なら返り討ちにするだろうがよ」
「仕方ないさ、篝火は私らの保護者、なのだからな」

 郁はそのまま、自宅への岐路へと着く。
 真っ黒な衣装を纏う郁を白き断罪だと疑って罪人が襲いかかってくることはなかった。

 そもそも、新人以外は泉の影響か、郁自身の力か、郁の顔は結構知られているため、余程のことがない限り態々襲いかかってくる罪人はいない。仮に襲いかかっても、郁自身の腕前は確かなものであるが故返り討ちにあうのがおちである。
 万が一郁のことを知らず襲い掛かり、後に泉にバレた者の末路を誰も知らない。
 泉は郁の兄であり、郁に害す者は絶対に許すことはしない。
 それがわかっているものは、態々泉の逆鱗に触れようとは思わないからだ。
 命が惜しいから――


 そうしていつも通りに見えて、いつもとは違う夜が更けていく

 同じ日など廻って来ないのに
 同じ日がずっと続けばいいと願う。
 平穏とはいえないかもしれないけど、平穏な日々の中で
 皆と笑っていられたらどんなにいいだろう


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