零の旋律 | ナノ

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「ごめんね、朔。けれど今はこれ以上触れないでほしい、俺も色々とさ驚いているんだよ。……いつか、話すから、だから今は触れないで」
「……斎」

 朔夜は斎の手を放した。

「じゃあ、今日は帰るよ俺」
「泊まってけ」

 この場から立ち去ろうとした斎にただ朔夜は云う。

「一人になりたいんだよ」
「泊れってんだ」
「だからね、朔」

 普段の黒さが見えない斎に、朔夜は調子が狂うと思いながら自然と自身の白い髪の毛を弄る。
 手がいき場を求め彷徨っているようだった。

「あぁ、もう! 俺はお前が一人で何かしでかさないか気になるから、今日は泊まってけっていってんだよ!」

 投げやりに云う朔夜に一瞬斎はキョトンする。やがて、その顔にはやがて笑みが浮かぶ。

「何笑っているんだよ」
「ごめんごめん、珍しいことを云うものいだからね、つい」
「でどーすんだよ、第一口調がお前らしくねぇんだよ」
「……明日は槍が降りそうだね」
「はぁ?」

 今までの表情とは一変して失礼な物いいの斎に朔夜の眉間に再び皺がよる

 そのうち皺が取れなくなるぞ、と篝火は心の中で思いつつ口を挟まない

「だってそうじゃないか、親切な朔夜なんて幻級だよ、明日は外に出歩かないようにしなきゃ」
「てめっ人が気遣ってやりゃよ」
「普段からヒト様を気遣うような心優しい方なら問題なかったのにね」

 どんどん喧嘩腰になっていく朔夜を傍目に篝火は何も言わない。
 止めることを偶にする郁も何も言わない。
 元気のない口調の斎より普段の口調の斎のほうがいいからだ。

「ああそーかいそーかい、ならもうてめぇなんぞ知らんわ。さっさと寝やがれ」
「まだ夕方だってのに早い就寝時間だこと、まぁいいや、じゃあ俺は寝るわ」

 そう言って、朔夜がいつも寝ている、もしくは個人的な部屋である場所の扉を開けようとする

「てめぇそこは俺が寝る場所だ、篝火のとこを占領しやがれ」
「ケチくさいね、禿げるよ」
「あぁ?」

 斎は隣の扉――篝火の部屋を遠慮なく開けて、そのまま中に入って扉を閉める。
 静かになったところで、朔夜の眉間の皺は取れた


「たっく、やりずれーやつ」

 朔夜は斎の姿が見えなくなったのを確認してから軽い溜息とともに呟く。

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