X 「あぁ、そうだ、由蘭とは知り合いだったのだよな? 斎」 そこで、斎と由蘭が知り合いだったことを思い出し話を振る。 篝火と朔夜は驚いた表情で一斉に斎を見る。斎はやれやれと言った後、口を開く。 「昔から由蘭はあんな感じかな。いやもうちょい男っぽかった気もする。まぁ罪人の牢獄に来る以前の知り合いだよ」 「どんな知り合いだったんだ?」 「……」 篝火の言葉に斎は黙る。答えにくいから黙ったわけではない。それは――これ以上は触れるなということ。だが問題が問題なため、普段ならそれで終わる篝火も今回は終わらなかった。 「じゃあ、絡ってやつは知っているか」 「!?」 絡その単語に斎は明らかに動揺していた。右往左往とまでは行かなくとも、それに近い状態であった。 それが表すのは確実に知っているということ。白き断罪に二人も知り合いがいるといこと、それはどんな意味を示すのか――想像がつかないほど鈍いものはこの場にはいない。 「知り合いってことか、じゃあ斎、絡とはどんな知り合いだ?」 「……ここに来る前の知り合いだよ」 「それはわかるって」 「唯、それだけだよ」 そう言って斎は席を立とうとしたが、斎の隣に座っている朔夜が斎の手首を握る。 「離せよ」 「はぁ? てめぇ状況わかっていんのか?」 「わかっているつもりだけど、由蘭と絡がこの街に……いや白き断罪がこの街に来ているってことくらい」 「俺が言っていんのは、そういうことじゃねぇってんだ」 朔夜の握る手の力が強くなる。 本気で振りほどこうとすれば、簡単に振りほどける力だったが、そこまではしなかった。 すれば朔夜は実力行使に出るために自分と距離をとって術を放ってくる。 今はそれをするとこではない。第一斎にとって日々言い争いをしても喧嘩をしていたとしても――大切な友達であり仲間。無理やり掴まれた手を振りほどくことは出来なかった。 「……わかった。言い方を変えよう、これ以上は触れないでほしいな」 その時の斎の眼は、悲愴でけれどそれを隠そうと微笑んでいるようで思わず朔夜は、斎から眼を背けたくなる。朔夜が踏み込もうとしているのは、斎が踏み込まれたくないと思う過去。 心の闇を抉るようなまねをと朔夜は一瞬躊躇する。 その様子に斎には一種の罪悪感が生まれる。 朔夜が守ろうとするのは、街を、そして――罪人の牢獄。 それゆえに、それを滅ぼすものは許さない。 自分は何だろうか、と斎は考えてしまう。何のために白き断罪と敵対する理由があるのかと。 白き断罪――そして、斎はその中でも白蓮の部隊だとは思わなかった。否思いたくなかった。今でも実は人違いだよ――と、現実から目を背けたくなる。だからこそ、他にも知り合いがいるとは言えなかった。 そして由蘭と烙が、白き断罪が罪人の牢獄に来ていると知った時点で斎にとって一つの覚悟が生まれる。けれどこの時はまだ誰にも話さない。それは一つの覚悟であり、斎の心を渦巻く矛盾だったから [*前] | [次#] TOP |