零の旋律 | ナノ

V


 そのことを篝火は疑問に感じながらも問いただすことはしない。
 いつか、朔夜の口から語ってくれればそれでいい、そう思っているから。
 その後、朔夜と篝火は待ち合わせ時間まで、あたりを散策したが“白き断罪”の姿は見当たらなかった。
 同様に由蘭と出会った後の斎と郁も大した収穫がなかった。しいて言うなら、白い集団に間違われた斎のもとへ、新しくこの街にきた罪人が襲ってくる程度だった。
 そして勿論、斎と郁が適当にあしらって終わる。よほどの実力者でなければ、戦闘にたけている斎と郁に勝つことは出来ない。
 待ち合わせ時間に遅れることもなく、彼らは到着する。

 その後はお互いに情報交換をするため、朔夜の自宅に再び足を踏み入れる。


「たっだいまー」
「てめぇはここの住民じゃねぇだろ」
「ケチケチするなんてあぁ、なんと心が狭いのだろう」
「狭くて結構。さっさと報告したら帰りやがれってんだ」
「あぁやだやだ、ここの狭い人間にはなりたくないなぁ」

 毎回の恒例である朔夜と斎のやりとりに、篝火は額に手を当て軽くため息をつく。
 玄関の前に二人がいるため、篝火と郁は中に入ることができず、玄関前で渋滞だ。
 しびれを切らした郁が朔夜の背中を、ヒールのある靴で蹴ろうとするのを篝火は抑えて抑えてと止めるのも、毎回恒例。

「てめぇら、さっさと部屋に入りやがれ蹴るぞ!」

 郁の怒鳴り声に前にいた朔夜と斎が後ろを振り返ると、腰付近までに足が上がり、その足は今も昨夜と斎に牙をむきそうだった。
 ヒールが目に入る。普通の靴で蹴られるより殺傷能力がかなり高そうだ。

「……」
「……」

 二人はそんな郁の様子に無言で靴を脱ぎ、朔夜の部屋の中に入っていく。
 郁も靴を脱ぎ、部屋の中に入っていく。
 最後に篝火があまり意味のない施錠をドアにして、キッチンに一人だけ向かう。全員分の飲み物を用意するためだ。
 朔夜は面倒がってやらないし、斎も手伝いはしないだろう。郁は論外。手伝ってもらうだけ仕事が増えるだけ。


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