零の旋律 | ナノ

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「やっぱりここのパン屋は最高だ」

 昼の時間になったからと、第一の街にあるパン屋に篝火と朔夜の二人はいた。
 昼時には罪人の牢獄なのに、そこそこ繁盛する。国でパン屋を営んでいた店主が、罪人の牢獄で出している店だ。パン屋の店主が一体どんな罪を犯したかは知らない。
けれど、此処のパン屋の味はお済つきだった。罪人がやっているからといって、食中毒 事件が起こったこともない、安心して食べられるパン。何より篝火お気に入りのパン屋だった。

「俺は、そろそろ多少は飽きるぞ」
「飽きるだなんて勿体ないことこの上ない、ここのパン屋は最高じゃないか」
「いや、旨いのは認めているけどさ、お前が料理を作らないときは毎回毎回パンじゃないか、いい加減に飽きるってもんもあるわけよ」

 朔夜は諭すような口調で篝火に抗議をする。

「って、お前が料理作ってもパンの確率高かったか」

 パンの焼き加減も丁度よく、料理が苦手な罪人はこの場所に足を運ぶ者が多い。だが、篝火も朔夜も料理は出来る。
 勿論、斎も料理は出来る。あの面子の中で料理が出来ないのは、郁だけだ。


「飽きないように工夫された、この絶妙な舌触りがいいんじゃないか」
「あー、はいはい。わかった、わかった俺がわるぅございあした」
「……悪いと思っていないだろうが」
「本当に思っていたらんな口調じゃいわねぇってんだよ」
「本当に悪いと思っているのに、あの口調だったら一発はぶん殴っていたな」

 真顔で言う篝火に、朔夜はいつから俺の母親にでもなったんだ、と心の中で呟く。
 口にしたら冗談ではなくて、本当に一発殴られそうだったから言葉には出さないだけ。
 同じ術師で遠距離タイプの斎にすら勝てない腕力。それに反して篝火は接近戦タイプ
しかも、己の手足で戦うことを得意とする篝火になど、腕っ節ではどうやっても勝ち目はない。

「あぁ、なんで俺の周りは腕力馬鹿が多いんだ」
「それはお前が弱すぎるだけだ、術が使えなかったら、上のゴロツキより弱いじゃないか」
「ぐっ……ってか上のゴロツキってどの程度の強さなのかわからねぇし」
「……ひょっとしてお坊ちゃまだったとか?」
「あぁ?」
「いや、なんでもない」

 眉間に皺をよせる朔夜に、これ以上篝火は聞くのを止めた。
 上とは、罪人の牢獄の上に立つ国のこと。罪人は国で罪を犯したものの大半がこの地に送られる。

 ――なのに、何故、大体の強さがわからない

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