零の旋律 | ナノ

V


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 闇は新たな闇を生み出し、さらなる奈落へと突き進む


 罪人の牢獄第二の街――そこに彼らは集まる。

「今日は一体何人殺されたんだ」

 ため息交じりに口を開くのは、事実上政府と密接な関わりを持ち、この罪人の牢獄を支配している人物。二十代前半と思しき容姿。背中まである銀髪はリング状の髪留めで結んでいる。薄手の薄紫色のマフラーを巻き、スーツのような形をした榛色の上着とズボンを着ている。上着の中から見える服は黒い。
 罪人の牢獄支配者は名前を別段隠しているわけでもないのだが、周りの罪人は彼を名前では呼ばずこう呼ぶ――銀髪(ぎんぱつ)と。それ故銀髪の名前を知らない者もこの罪人の牢獄には多々存在する。

「さぁ、知らないわよぉ」
「まぁ、そりゃそうだ。白き断罪による殺人以外の殺人もこの罪人の牢獄では日常的に起こることだしな」
「きゃはははっ、あったり前じゃないのぉ」

 語尾を伸ばしながら銀髪と話すのは、最果ての街支配者梓(あずさ)。銀髪の隣の座り、足を組んでいる。艶やかな烏羽色の髪、そして瞳は爛々としている。黒とピンクを基調にした服装は所々フリルが垣間見える。髪飾りとして、左側には桜色の花をつけている。
 最果ての街、とは罪人の牢獄が堕とされる場所を始まりとしたら、そこは唯一外との繋がりを得られる終わりの場所。そして街の中で最たる危険を持つ場所。

「きゃはっ、お茶がなくなったわぁ。お茶を早く頂戴」

 梓は銀髪に命令をする。事実上の立場は銀髪の方が上なのだが、梓に、否――梓に限らず立場関係を気にすることはない。だからこの光景は日常的で慣れたもの。銀髪はハイハイと二回返事をした後、ソファーから立ち上がり紅茶を入れる為に席を外す。この場所にいるのは銀髪と梓だけではない。他に三人向い合せになるように座っている。

「我の部屋を勝手に使うな」

 銀髪が自分の部屋を勝手に使うことを快く思っていないのか、それとも本題を離さずに紅茶をいれに行くのが気に入らないのか――多分後者の理由で、この部屋の主は銀髪に話しかける。

「ヒナちゃん、ええやないん。別に減るもんやないし。それにあれの入れた紅茶は旨いんやし」
「水が減る。電気も減る」
「そりゃそうやけど」
「何か文句でもあるのか?」
「いや、ないけど」

 ヒナちゃんと呼ばれた人物が、この部屋の主だ。名前は雛罌粟(ひなげし)この場所にいるのが不釣り合いに思えるほど幼く、歳は十を少し過ぎた程度に見える。桃色の髪を下で二つに結び途中からは縦に巻いている。服装は、この牢獄でも政府の国でも珍しい着物。赤をベースとした着物の袖は長いのか、手がすっぽりと隠れてしまっている。 外見には不釣り合いな大人びた口調を使う。この現在彼らがいる場所――第二の街の支配者。

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