T +++ 「政府が許している罪人の牢獄を何故政府の組織が殺すのさ」 斎の言葉に郁は呆然とし何も言えなくなる。正しくその通りだったからだ。 政府が手を貸さなければこの牢獄は人が生きていけない場所。 例え、今はある程度街が機能していようと、政府がこの牢獄に手を貸さなくなればいずれ滅ぶ。 ここはそういう場所だ。 政府からの支援があるから存続を許された地 腐敗した大地は命を生み出さない 腐敗した奈落は命を奪い去る。 「……」 黙る郁に斎は曇天の空を眺める。 あぁ、この地にも空があればいいのに、街を覆う雨が降り注ぎ、この気持ちを洗い去ってくれればいいのにそう思う。 けれど、牢獄で雨は降らない。 何も流し去ってはくれない 何も消し去りはしない あること自体が罪の存在 生きていることが罪 「白き断罪の目的はなんだろうね」 本当は知っている これは唯の復讐だと 白き断罪は、過去の産物と消えさっただろう政府の正義を復活させようと 白き断罪は、罪を犯した人が生きて、その被害者のその後を嘆き、悲観して 白き断罪は唯、この世界の矛盾を正そうとしているだけ 「本来なら俺達は死ぬべき存在なのだから」 白き断罪は歪みを正そうとしているだけなのだろうか 「……白き断罪か」 眼を瞑れば過去の映像が再生される。 あの時から、動かない過去の映像。 忌まわしき記憶 大切な人は、目の前からいなくなり 大切な人は、自分を守り続けてくれる あの時に縛られ続けている。どうしようもない不安と恐怖が身を裂く。 「……」 郁は自分の手首を眺める。 黒い服に身を包んだ郁は手すらも手袋で黒い。肌は一切見えない 「どうしたの?」 「いや、なんでもない、唯の過去の感傷に浸っていただけさ」 「ふーん、まぁ深くは触れないよ」 唯、表面上の付き合いなだけなのだろうかそれは。否、表面上の付き合いではないからこそ――触れない。 [*前] | [次#] TOP |