零の旋律 | ナノ

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「由蘭。お遊びはそこまでにしたらどうだ」
「……なんのことでございましょうか?」
「還せ血脈に束縛された繋ぎを夢へ」

 斎は五枚の札を右手に持ち、同時に全てを放った。
 それは人形たちのいた場所を囲むように、円を描くように。

「わたくしの術は昔とは違いますのよ!」

 対抗するように、由蘭は術を謳う

 幻と現実が混ざり合う彼方で
 此処に人形を現実へ引き連れよ
 繋ぎとめよ

 それは、先ほどより鮮明な高い声で。
 そして、僅かに焦りを感じさせる歌を歌う

 壊れた人形は瞬き一つの時間で全て再構築された。
 しかし、その時斎の術は全ての人形を札の内側に囲っていた。
 札は五角形の結界を作り上げる。一気に五角形の空間は内側に向かって縮小され、後に残ったのは、結界の余波となった波動だけだった。
 人形は跡形もなく消え去っていた。

「……裏切り者!」

 その様子に由蘭は叫び、宙を浮くようにして消え去った。『裏切り者』そう呼ばれた斎の瞳は冷たく光を帯びていないようだった。

「おい、裏切り者とはどういうことだ? 斎」

 現状がよく把握できていない郁は斎に詰め寄る。
 もしかしたら――もしかしなくとも、斎は白い集団について何かしらの情報を持っているので、その存在について知っているのでは――しかし、斎から返事はない。

「そういえば、斎。お前は由蘭が白き断罪に身を置くという前に、白き断罪という言葉を口にしたな。それはつまり、お前が元々存在を知っていた、ということじゃないのか?」
「憶測だよ、そんなもの」
「ふざけるな! ならば何故裏切り者なのだ? お前は何か知っているんじゃないのか、この白の殺人について」

 問い詰めようと斎の胸倉を掴む。白い服が鮮明に視界に映るようだった――。斎は郁の手をどけさせ、口を開く。

「罪人の牢獄に来る以前、由蘭とは知り合いだったんだ」
「……それだけか?」

 それだけならば、態々裏切り者と声高に叫ばれる必要はないのでは、と郁は疑る。

「それと、白き断罪って呼称は、悪いけれど間違いなく泉は知っているよ」
「!?」

 泉――自分の兄の名前が出来たことに驚く郁に斎は何処か寂しげな笑みを映す。けれど、別の表情を作り、寂しさも悲しみも、懐かしさも全て覆い隠そうとする。

「白き断罪は簡単に言えば政府の組織の一つ。特徴は白を基準とした服装を着ている。後は白い十字架をモチーフにしたピアスをつけている者もいる。一般的に広く知れ渡った組織ではないけど、情報屋とか、政府に詳しい人なら普通知っているよ。元々昔からある組織で、最近作られたわけでもないからね」
「……それなら、私の兄貴は確実に知っているな」
「そうだよ」
「ならば、何故言わなかった」

 知っているのならば、最初っからそういえばいい話。
 白き断罪の罪人殺しただといえばいい話。それを、何故知っていて知らないふりをしたのか。

「確証がないからだよ、そんなの」
「それだけの事実を知っていて、何故確証がないと言える」

 郁の質問に、斎は何処となく邪悪な笑みを浮かべる。
 それは、他に何か別の理由があるのではと勘繰りたくなるほどの笑みだった。


「政府が許している罪人の牢獄を何故政府の組織が殺すのさ」


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