零の旋律 | ナノ

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 何の術かと眼を見開く郁。光はすぐさま収まり、その場に現れたのは幾人もの人の形をした何かだった。

「これは……!?」

 驚く郁とは対照的に斎は冷静だった。

「唯の人形だよ。戦闘兵器を作り上げたのさ術で」
「成程……詳しいな。同じ術師だからか?」
「……さぁいくよ」

 郁の質問には答えず、斎は札を再び握り直しそのまま平行線に投げる。
 その札は人形に当たり初めて術の効果を現す。
 人形の額に当たった札は、札に描かれていた紋様の効果によって様々な術を及ぼす。
 それは一瞬燃えるように赤く輝き、次の瞬間に人形は札の部分から爆発した。
 決して大規模ではなく小規模の爆発だったが、人形一体を破壊するには十分な威力だった。
 郁は斎が攻撃を開始したのを見ると、近づいてくる人形を片っ端から切り始めた。
 右へ左へ、上へ下へ。
 華麗な舞を踊るように優雅に。
 剣舞だけを見るのならば、普段の口の悪さなど一切想像もつかせないような攻撃だった。

「中々おやりになりますわね。先ほどのわたくしの攻撃をさけたことといい。先刻の方々とは実力が違いになるご様子ですわね。ですけれども、その程度の実力ではわたくしの術を破ることはできませんわ」

 数十体を術で作ったはずの人形はあっという間に全て壊された。
 だが、それでもなお、由蘭は余裕の表情を崩すことはなかった。

「これで全て倒したなど、おふざけにはならないでございませね。わたくしはこの程度の実力しかないような軟ではお生憎様御座いませぬから」

 ニッコリとほほ笑んだ由蘭に、郁は一瞬の殺意を覚える。
 刀を由蘭の前に向け問う

「お嬢様が、この場に何の用だ」

 その問に、一瞬由蘭は首を掲げた後あぁと一人納得を始めた。

「?」
「申し遅れましたわ、わたくしは男ですので、この場合お嬢様という言葉にそぐいません」
「はぁ!? 男だぁ」

 長すぎる髪、華奢な容姿、丁寧な口調は何処からみても女の子にしか見えない。
 しかもそこいらの少女と比べても非常に女らしい。男と判断する方が無理だった。

「よく、初対面の方は勘違いをなされますが、わたくしは間違いなく男で御座いますよ。それにわたくしには由蘭という名前が御座いますの、そちらの方で呼んで頂けると嬉しく思いますわ」
「……オカマか?」

 疑惑の眼差しを向ける郁。

「失礼ですわ、わたくしはオカマでは御座いません。別にわたくしという一人称自体、女性限定のものではありませんし、それに女装など致しておりません。甚だ勘違いも宜しいところですわ」
「……その口調は女口調だととてつもなく思うのは気のせいだろうか」

 そう言いつつ、接近戦には明らかに弱そうな由蘭に郁は切りかかる。
 一瞬ともいえる速度で間合いを詰め、そのまま切り刻もうと刀を動かそうとした時だった。
 足元に何か違和感があることに気づいた。
 ふと、足元を見ると、先ほど倒したはずの人形が再び形を為そうとしている。

「(これは!?)」

 嫌な予感が感覚として伝わってきたとき、郁はすでにその場から離れて元いた場所に移動していた。

「正解ですわね、わたくしの人形は再構築されるのです。何度でも何度でも。ですから、倒そうと無駄なのですわ。貴方方は戦い続けます人形と――わたくしも今度は応戦いたしますからご安心を」
「何がご安心をだ、ふざけるな」
「ふざけて殺人などわたくしは致しませんわ」

 郁の眉間に皺が寄る。

「それでは、第二幕といきましょうか」

 対する由蘭は微笑む。


「……おい、斎?」

 由蘭が臨戦体形に入ったのを見た郁は由蘭が来てから大して言葉を発していない斎のほうを見る。
 何を黙っているのだろうかと疑問に感じた。一方、そんな郁の視線には目もくれずに斎は札を手に五枚持っていた。そうして、由蘭に視線を向ける。郁はすぐさま視線を由蘭へと切り替える。

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