零の旋律 | ナノ

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 ――何故、わたくしたちを裏切ったのですか、何故、今ここで再開するのですか

 風よ、今ここに靡け
 舞え高き砂よ

 悲しき旋律を奏でる


「!?」

 斎と郁は突然の歌に驚き、背中に感じる悪寒に、自分の直感に判断をゆだね左右に飛ぶ。
 一陣の風の鋭い刃が郁と斎がいた場所を切り裂く。
 後に残るのは砂だけ。

「……」

 対峙していたはずの罪人はそれを避けることができず、砂となり散った。

「避けてしまわれたのですわね」

 二人の後ろに舞い降りたのは、風のようにふわりと――術を使っているのか、降りるその姿はゆっくりとしていて、重力を緩くしているように二人の眼には映る。

「!?」

 斎は降りてきた人物を驚愕の瞳で見つめる。郁に悟られないように――そして、自分の予想が的中してしまったことに、心の中で悲嘆する。

「初めまして、わたくしは白き断罪に身を置く由蘭(ゆらん)と申します。以後お見知り置きを」

 丁寧な口調で挨拶をした人物は、水色の長い髪を上で高く結い、さらにそれは途中で二つに分かれている。髪は非常に長く足元まである。
 白い服に身を包んでいて、白とは反対の黒いミニスカートからはすらりとした細い足がうつる。膝より上の部分からは足のラインに合わせてある白いブーツを履いていた。 瞳は蒼く青く澄んでいる。
 歳の頃合いは十代半ば。手には分厚い本を一冊大事そうに抱えている。

「由蘭……」

 白き断罪の由蘭と名乗った人物を見た、斎はボソリと誰にも聞こえないように呟く。

「わたくしの任務は貴方方を抹殺することにありますわ。故に此処で死んで頂けるでしょうか」

 由蘭は敵である二人に対し、丁寧な説明をするその姿はある意味異様であった。罪人達を瞬殺といっても過言ではないことをしたこの人物に郁は慎重になる。

「それでは、さようなら。何れ会う幻想の中で」

 由蘭は本の一ページを捲る。

 そして謳う
 幻と現実が混ざり合う彼方で
 此処に人形を現実へ引き連れよ

 その歐は何処か悲歌の雰囲気が伝う。
 それは由蘭の心境が如実に表れているからなのか、それとも何か別の理由があるのか。

 本は光を帯び、瞬く間にそれは広がりを見せる。

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