零の旋律 | ナノ

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「朔!」

 絡が動いたことで、今まで蚊帳の外だった篝火も動いた。
 朔夜の後ろに回り服を引っ張り、刀に切られないように後ろに倒すように引っ張り、そのまま朔夜の代わりに篝火が前に立つ。刀の攻撃範囲にはギリギリで入らない位置に。
 刀が地面まで振り下ろされたのを見ると、篝火は近づいてきていた。
 絡に向い右手の拳を鋭く突きだす。

「ちっ……」

 刀を下向きのまま、絡は後方にバックする。
 空振りした篝火の攻撃の隙に絡は再度切りこもうとするが、眼前に蹴りが飛んでくる。
 僅かに髪の毛がかする。

「あぶねぇ」

 不用意に近づいてはと絡は体制を立て直すため一旦距離をとる。

「おい、勝手に始めるな朔夜。後方で援護しろ」
「わかったよ」

 後ろに引っ張られた朔夜はあの時、篝火の勢いに任せた引きにバランスを崩して座り込んでいた。
 立ち上がり、服についた僅かな砂を掘ろう。
 ここは、街と外の境界線。土と砂が地面。


 朔夜は篝火に言われた通りに下がる。
 それは一見すると臆病に取れる程に。
 手は砂をほろったあとズボンのポケットに突っ込む。
 これが朔夜と篝火の戦闘スタイル。
 接近戦を得意とする篝火は前線に出て、朔夜に攻撃がいかないようにしながら敵と戦い、遠距離戦を得意とする朔夜はそうそう敵の攻撃が届かない位置に移動して、敵の攻撃から篝火を守り、そして敵を術で攻撃する。
 その際は普段愛用している術は馴れたものであるので、術に言葉を乗せる必要はない。
 唯、思い描くだけ。

「白き線を描き切り裂け!」

 絡の遠距離からの術が飛ぶ。
 それはカマイタチ上に鋭く鋭利な刃物となり、攻撃対象に遅い掛る無数の刃となる。
 唯、それは何処までも白い。
 それを、朔夜は篝火の周りに無数の雷を頭上から落とす。それは円上に篝火を守るように。
 白い刃と雷はお互いに相殺し合う。
 直にそれは、無数の雷が白い刃を全て打ち消す。

「ふぅん、朔夜は術師だったのか」

 術師と接近戦タイプのコンビ。今まで相手にしてきた罪人よりは歯ごたえがありそうだと、無意識のうちに口元が緩む。それは、絡だからなのだろうか。他の白い集団に共通していることなのか。
 笑みを見た篝火には判断が現時点では付かない。

 唯、傍にいてくれればそれで幸せだったのに
 今、目の前に彼はいない
 唯、目の前に存在してくれるだけでうれしかったのに
 今、傍に彼はいない

 ――ねぇ、どうして隣で微笑んでくれないの

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