V そこで朔夜はいきなり叫ぶ。 「おーい、白い殺戮者―いるなら出てこい!」 「……おい、待てよ!」 朔夜の叫びに突っ込むのは勿論、篝火。一瞬突然の行動に驚き篝火の反応が遅れる。 叫んで出てきたら苦労はしない。そう続けようとした時―― 「呼んだ?」 姿を現した。 「呼んでねぇ」 とっさに言われたことを否定するのは習慣だろうか。斎との会話で自然と身についてしまったものかもしれない。 「いや、呼んだ」 すぐさま朔夜が呼んだことを思い出して篝火は訂正する。 「って……なんで呼んだら出てきてくれるんだよ」 その後思わず突っ込むのは習慣だろうか、敵だろうが味方だろうが。 「いや、そりゃ呼ばれたからでしょ。こっちとしても罪人を殺すのが今の任務だし丁度いいじゃん」 軽いノリで篝火の突っ込みに返事をしたのは、情報通り白い服に身を包み、十字架をモチーフにしたピアスを両耳につけていた。 髪の毛は漆黒で髪をポニーテールにして一つに纏めている。金色の瞳は篝火たちを真っ直ぐ見据えている。武器までも真白でその刀は白い。唯、蒼い線が模様として彩られているだけ。 歳は二十歳を少し超えた程度に見える。 「うわぁ、なんかすげぇ変なのが釣れた」 朔夜は思わず二歩程後ずさりしてしまう。朔夜自身も出てきてくれるとは到底思っていなかった。そんなことは万が一にもないだろう――などと思いながら叫んだのだったが、だからこそ本当に出てきたことに驚きを隠せない。 「変なのってねぇお前。普通は叫んだそっちの方が変だろ」 「いや、呼んだ? って登場するほうが変だ。絶対」 「そっちだろ」 漆黒の青年は、朔夜とどちらが変か言い争いを始めた。 それを見た篝火は額を抑えて、軽くため息をついた後二人に聞こえないように呟く。 「なんでフレンドリーなんだよ」 罪人を殺しているからこそ、深い憎しみの念を、瞳を抱いたものだろうと思っていた白い集団の一人目の青年の瞳は、闇に沈んだような、絶望を抱いているようにしか見えなかった。 それは憎しみではなく悲しみ ――何故忽然と姿を消す、傍にいてくれたから今までもこれからも生きていける気がしたのに それは誰にも聞こえない心の嘆き 「どうでもいいけど、死んでくれる?」 「そりゃ、こっちの台詞だってーの」 不敵に笑い合う朔夜と漆黒の青年。 今までのフレンドリーさは何処に消えたんだと、心の中で思う篝火。 「あぁ、そうだ、ついでに教えてよお兄さんあんたの名前」 「……どうせ殺されるのに名前を知ってどうするの?」 「こちらと死なねぇってんだよ。あ、んーなんとなく」 「なんとなくか、ならいいか。俺は絡(らく)」 絡と名乗った漆黒の青年は、白い刀を鞘から抜く。綺麗に磨かれた刃は、太陽が照らさないこの地でさえ、白く輝くようだった。 「へぇ、俺は朔夜。まぁ忘れていいよ」 「聞いたものを態々忘れてどうするんだよ」 「そりゃそうか」 絡は右足に重心を乗せて、そのまま朔夜のもとに踏み込む。 あっという間ともいえる速さで朔夜の眼前にやってきた絡は、そのまま朔夜を一閃しようと縦に上から刀を振り下ろした。 [*前] | [次#] TOP |