零の旋律 | ナノ

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「おい、そこの仲良し二人組、そろそろ出かけるぞ」
「誰が仲良し二人組だ」
「そうだよ、篝火。心外だなぁ」

 別に仲裁に入ったわけではなく、これ以上長引けば帰宅が遅くなるし、第一パン屋が閉店してはパンを買うことが出来ない。それゆえにさっさと済ませたかった。
 今日の夕飯はパン屋で買ったパンとグラタンにしようと決めていた為、その予定が変わるのも好ましくない。

「否定している時点で同類だ。行くぞ」

 若干普段の声よりトーンが低い。原因は予定時間より微妙に遅れたことにある。それのさらに原因を辿れば朔夜と斎にある。二人は篝火を怒らせて後後面倒になることは御免なので、素直に従う。



「遅かったな」

 外に出ると、すでに待機していた郁が腕を組んで待っていた。相変わらずの真っ黒な服に身を包んでいる。

「いつも通りでーす」
「朔夜と斎が言い争っていたか。てめぇらもこりねぇなぁ」

 呆れ半分諦め半分の口調で言う。

「毎回毎回、朔夜が突っかかってくるのが悪いんだよ」
「九分九厘てめぇが原因だろが」
「うわぁー二割は朔夜のせいだよ」
「残り八割は斎のせいだって自覚あるんだろが」

 毎度のことながら何も言わなければいいのに余計なことを言って、朔夜をからかって遊ぶから朔夜が突っかかってくると理解しながらも、斎はそれを面白くて止められない。朔夜はその度に色々な表情を見せる。それがさらに面白いと思ってしまう――大抵は怒っている顔だったとしても。
 性質が悪いと過去その話をしたら朔夜に言われた。斎自身それは自覚していることだった。それ故厭味にはならない。

「今日の夜中に罪人がまた大量に殺されたらしい」

 篝火は本題に戻す。
 朔夜程ではないが、郁も言い返す性質なので、適度な処で切り上げなければパン屋が閉まって今晩のメニューが食べられなくなる。

「それで、どーする」
「そうだな……手っ取り早いのはやはり囮にでもなって、向うからやって来てもらうことか?」

 その場合、負けたら死ぬけどなと自嘲気味に郁は笑う。

「そりゃあ、そうだぁ……唯、単独行動ってのもあれだな」
「昨日は何人殺されたんだ?」
「九人」

 郁が淡々と答える。

「なら全員でふらりとその辺歩いていてもいいんじゃねぇか?」
「だけど、それじゃあやってくる確率が下がるよ」

 誰だって大人数をいっぺんに相手するより、少人数のほうが楽でしょ、と斎は最後に付け加える

「だが、相手の武器によってはサシより、多人数のほうが得意のやつもいるかもしれねぇぞ?」
「昨日現れたのは、鋭利な刃物――刀とかの切り傷で殺されたらしいよ。だから武器的に多人数が得意ってわけではないと……思う」

 斎は一つの可能性を覚えながらも“それ”は口にしない。否、口に出来ない。現状を可能性を認めたくなくて、信じられなくて。

「なら、二組に分かれて行動すりゃいいんじゃねぇのか?」

 朔夜の提案に他の三人も頷く。

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