零の旋律 | ナノ

V


「これが――夕日」

 朔夜は生まれて初めて外に出た。
 夕焼けが辺りを赤く染める。
 大地には色とりどりの花が咲き誇る、
 紫蘭の花が篝火の目につく。

「紫蘭――花言葉は君を忘れない、あぁ、忘れないよ」

 身につけている紫蘭のネックレスを強く握り締める。
 篝火は地面に座る。久々に感じる外の空気、暖かさ花の香り夕焼け、どれもこれもが懐かしい。
 その後ろ、背中合わせに朔夜は座った。

「朔?」
「あの言葉、忘れていないよな?」
「あの……あぁ、忘れていないよ」
「背中貸せ」

 朔夜の頬に伝わる涙。
 篝火は背中越しに朔夜の温もりを感じながら、空を眺める。
 何処までも遠く果てしなく
 続く空を眺める――


 一つの物語が終わり、また新たな物語を紡ぎ始める。
 終わりを迎えて始まりを向ける
 廻り続ける刻



 第一部完

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