零の旋律 | ナノ

残されたカタチ


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 泉が姿を消してから一日後
 篝火は泉がいないとわかっていながらも泉の自宅を訪れていた。
 扉を開けると、そこは無だった。
 何もない、人が住んでいた形跡がまったくない空間だった。

「立つ鳥跡を濁さずかよ……」

 何もない。
 泉と今まで一緒にいたというもの全て何もない。
 始めから泉がこの場に存在していなかったように。
 何もなかった。
 篝火は一つ一つの部屋を見ていく。
 けれどそこは全て同じで、住んでいた形跡が存在しなかった。
 篝火は最後に泉の部屋の扉を開ける。
 そこで篝火は目を疑った。

「これはっ」

 篝火は急いで泉の机の場所まで行く。強く机に手を置く。
 そこには、確かに泉がいた形跡があった。
 膨大な紙が机の上に丁寧に置いてある。
 篝火は急いでその紙の一つ一つを見ていく。

「……!!」

 その紙にはこの罪人の牢獄の罪人たちの個人情報や、政府の現在の情勢等が事細かに書かれていた。
 これは泉が今まで収集していた情報だった。
 泉がこんな大切な情報を持つ紙を忘れるはずがない。
 此処まで、人が住んでいた形跡を消す泉が、この紙の山だけを忘れるわけがない。
 つまりこれは、態と泉が残していったもの――

「馬鹿だろっ……」

 篝火は紙を強く握り占める。
 その頬を伝う一筋の雫。今まで我慢してきたものが、一気に崩れ去ったようだった。
 今まで我慢して、一人で気をはって、どんなに泣きたくても泣かなかった。
 けれどこの紙の山を、泉が最後に――恐らく自分たちに残してくれたものを見た瞬間、今まで張りつめていた気が抜けた。
 その場にしゃがみ込んで、上を見上げる。

「あはは……こんなものを残したって……皆がいなきゃ意味がないのに」

 いつか、仲間になりたかった――


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