零の旋律 | ナノ

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「はぁっ」

 鞭を交わした後、地面に刀を突き刺し、それを軸にして、回し蹴りを放つ。元々武器を使わない格闘にたけ、バランス感覚に優れていた元泥棒だからできた芸当。
 それを、闇は数歩下がり交わす。
 鞭を上から下に振るう。
 波打ち近づいてくる鞭を左に交わす。交わしたところで鞭は途中で棒へと姿を変え、横を切り裂くようにやってくる。
 それを避けるためにしゃがむ。すぐに棒が下にやってくるのがわかるから、ギリギリのところで。回避したら、再び立ち上がり、斬りかかりにいく。
 それは殺すつもりで、決して手加減などしない。手加減などしたら此方がやられるだけだから。
 そして、する意味もない。
 殺すつもりでかかっていっても、自分に、この男を殺すことが出来ないとわかっているから。

『僕は、君のことが大好きだったけど、君は僕のことが嫌いだったんだね』

 そう言われたあの日、心に空洞が出来てしまったようだった。
 心にあいた空洞は、収まることなく、徐々に浸食してくる。
 喪失感虚無感が、押し寄せてきても
 そこに、友はいなかった。

「一歩踏み込んでみればよかっただろうがっ!」

 踏み込むことを恐れて、後ろに下がってばかりでは何も始まらない。
 失った命は、もう二度と戻ってなど来ないのだから。
 例え、どんなに悪あがきしようが、過去は現在には戻ってこない。過去は過去のまま、過去の産物として過ぎ去るだけ。

「踏み込む前に、全てがわかる」

 わかってしまうから、相手がどのようなものか。だから、信用する必要など、何もない。

「人を、信じられないんだな」

 わかってしまうから、だから信用できない。信じることが出来ない。疑ってでしか、見ることが出来ない。
 そうして、そうして、どれだけ傷ついてきたのか
 ――今ならわかる
 郁に情報屋の手伝いしかやらせなかった意味を
 郁に情報収集の仕方を教えなかった理由を

 知ってしまうが故に傷つくから
 疑いを持ってでしか、他人を見られなくなるから。

 大切な妹を傷つけたくなかったから全ては、妹を守るために
 だけど、泉は――自分を傷つけてきた


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