V 「そうやって、全てを拒絶した結果がこれなら、お前は拒絶するべきじゃなかったんだっ!」 篝火は激怒する。榴華は篝火が此処まで怒りを露わにしているのを見たのは二度目だった。 「大切な親友の存在を拒絶したお前に、何が言える?」 対する泉は全てを見下す。見下し、そうして全てを自分の外へ隔離する。 「ふざけるなっ!」 「激昂して何が見える。怒りに全てを任せて大局を見失うか?」 見下し、見下す。そうして全てから自分を隔離した。 「俺がそうした結果失ったんなら、お前はそうするべきじゃなかったんだっ」 黒い刀に手をつける。 もう、刃を握ることに抵抗はない。あの時、決めたから。 刃を向ける。ただ二人にしか心を開かず、それ以外のすべての人を拒絶した男に。漆黒をまといし、闇。深く深く、深淵が見えないほどに深く闇を押し込んだ男に。 「黙れ」 闇が膨れる。手に握る、短い棒が撓る。鞭へと変貌し。 「お前には、俺らのことはわからない。信じられるのは、情報と郁と律だけ。それ以外はすべて敵だ。心なんて許せるはずがない」 許しても裏切られる。 生きている限り、命を狙われ続ける。油断すれば待っているその先に見えるのは死。 「住む、世界が違うんだよ」 そうして、最後にはまた切り捨てられる。 何度踏み込もうとしても切り捨てられる。そうして何人、大切になろうとした人を失ってきた。 「……」 黙る。向けた刃を走らせる。 踏み込み、斬りかかる。右へ避ける。髪の毛が靡く。突き刺した後の反動で出来る隙を見逃さず、鞭が撓り、腹部へ迫る。 『悲しいね、結局僕らはわかりあえなかった』 最期の言葉を思い出す。どんなに悲しい思いをしても、どんなに自分を傷つけても失ったものは帰ってこない。だから、手遅れになる前に。 [*前] | [次#] TOP |