零の旋律 | ナノ

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 だが、その時、街から悲鳴が聞こえる。
 朔夜は熟睡しているのか、起きる気配はない。
 篝火は何事かと、慌てて外に出る。その手には郁が大切にしていた真っ黒の刀を一つ。
 悲鳴がある方にかけつけると、そこには――鞭を振りまわす泉と、逃げ惑う罪人がいた。
 榴華もすぐさま悲鳴を聞きつけ駆けつけてきた。普段なら、悲鳴程度では駆けつけたりはしないだろう、けれど現状は別だ。白き断罪が去ったばかりで何が起こるかわからない。

「泉、何をしているんだ!?」

 篝火は声をかける。生きていたのか、と安堵が含まれている。だがその声は泉に答えない。黒は闇に覆われていた。

「ご、ごめんなさっ」

 罪人は泉に謝ろうとするが、泉は聞く耳を持たない。
 無情にも鞭を振り回そうとした時、罪人の前に立ち、榴華が罪人を守る。
 泉の鞭を榴華は素手で受け止めた。
 掌からは鞭を受け止めた衝撃で一部皮膚が避けたのだろう、血が滴る。

「何をしているんだ、泉」
「……」
「答えろ」
「……答える義理はない」

 無表情で、感情を感じさせない声色で泉は答える。冷たい冷たい――絶対零度。

「何をしたんだ」

 榴華は罪人の方へ声をかける

「そ、それは」

 罪人は口籠る。何か泉の琴線に触れたのだろう。
 榴華は周囲を軽く見る。泉が歩いた周りにはあちらこちらに直したばかりの建物の破片が散らばっている。

「……一体この罪人が何をしたんだ」

 泉は答えない。

「泉っ」

 榴華の隣に篝火は立つ。

「泉! お前どうしたんだよ」
「郁がいないこの場所に何のようがあるというのだ」
「ふざけるな!」

 篝火が声を荒げる。泉が全てを拒絶したから。
 榴華は周りの罪人に逃げるよう目配せをする。
 柚霧もそれに従って遠くに逃げる。
 このまま泉の近くに居合わせる為にはいかないから。
 榴華も少し離れた場所に移動し、腕を組み待機する。何時でも動ける体制だけは整えておく。
 この街で、この牢獄で泉と対等に戦える者等ほんの一握りだ。ましてや泉の“本気”を見たことがあるもの等いない。


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