T 篝火が榴華と柚霧と会話している頃、朔夜の自宅に一人の来訪者が現れる。 「朔夜、入るよ」 朔夜の了承を待たずして、部屋の扉を開ける。室内に入り、壁を向いている朔夜を優しく抱きしめる。 温かな温もりが朔夜に伝わる――時が流れる事を拒否していた朔夜の流れが戻ったように、温もりは朔夜の感情を動かす。 「うぅ……お、俺はどうすればいいんだよぉ」 泣き腫らしていたのだろう、言葉が覚束ない。 「朔夜……」 「俺の、お、おれっのひっ、仲間がっ……親友がっ……もう、もう会えないんだ、どうしたらいいんだよ」 「朔夜」 優しく髪を撫でる。その温もりに朔夜は涙を流す。やむことを知らない涙は流れ続ける。 「泣きたいだけ、泣くといい」 「あっうあっ……お、お前だけは……!! お前だけはっ俺の前からいなくならないでくれっ」 「大丈夫、俺はいなくならないよ。君を害す者、君の敵は全て滅ぼしてあげるから」 来訪者は優しく耳元で告げる。かつて告げた言葉と同じ言葉を―― 「うあわぁあああぁぁぁああー! 虚偽ぃぃー!」 朔夜は振り向く。泣きはらした瞳は真っ赤だった。 そして来訪者――虚偽(うつろぎ)に身体を預けて泣いた。泣いた。泣いた。 暫くすると泣き疲れたのか、今までの疲労が溜まっていたのか朔夜は寝入った。 その様子に、虚偽は朔夜を抱き上げベッドの上に寝かせる。 「また、くるよ」 虚偽はその場から立ち去った 「君は死んではいけないよ。朔夜」 篝火は帰宅し、朔夜の部屋を覗くと、朔夜はすやすやと寝息を立てて寝ていた。頬にあるのは涙の跡。 篝火はそっと朔夜の頭を撫でる 篝火はわかっていた。失ったのが斎と郁だけではないことを。 朔夜がもっと烙と仲良くなりたい思いを持っていた事を知っている。勿論篝火もだ。 そして――篝火はもう一つ失うものがあることをわかっていた。 郁の実の兄である泉だ。 郁を失った以上、郁と繋がりがあった自分たちと一緒にいるとは到底考えられなかった。 泉にとって大切なのは郁と、恐らく律だけ。 そう篝火は感じ取っている。 だからこそ、篝火は泉と仲間でありたかった。友達でありたかった。 あの日から泉の姿を見かけていない。一体泉が何をしているのか見当もつかない。 朔夜もわかっている。大切な仲間を友。達を失うことに耐えられなくて、塞ぎ込んだ。 暫く朔夜の頭を撫でた後、篝火は台所に向かい料理を作りはじめた。今日こそは食べてもらおうと。 [*前] | [次#] TOP |