W +++ 回想する、それは―― 悲鳴が聞こえた 帰宅した彼は急いで家の扉を開ける。 血が飛散して、彼の頬に飛び散る。 血は涙のように、彼の頬から流れる。 横たわるのは無数に切り裂かれ抉られた最愛の人達 眼の前に刃を片手に、真っ赤な血で手を染め怪しく血に――口づけをする。 彼は目の前の惨状を夢で逢ってほしいと願う。 狂気な目と笑い声を発する殺人者と最愛の人達の無残な亡骸。 呆然と喪失感から彼は目覚める。 今あるのは捕まえなければいけない殺人犯。 生きていないのは明白なのに、助けたいと思う被害者。 「何故、うちの人達を殺した!」 彼は叫ぶ、力をこめて。しかし、それは掠れた声にしかならない。僅かに音を漏らすだけ。 眼から溢れ出すのは、彼も気がつかないうちに自然に流れた涙。手は現状を認めたくなくて震えている。 心は夢だと、悪夢だと現実ではないと思いこもうとしている。 足は力をなくし、立てない。座り込んだ彼に、殺人犯は笑うだけ。唯、狂喜しているだけ、彼の最愛の人達を奪い去っても、彼を一緒に逝かせることはしなかった。 そのまま、彼の前を素通りして、扉を開けて去っていく。 真っ赤に染まった殺人者。 彼は手が出なかった。 憎しみと恨みと憎悪と復讐が心を支配しているというのに 手は足は身体はその場から動けなかった。 後悔と自責の念が心を支配しているといのに 彼はその場から動くことが出来なかった。 「何を、したというのだ」 声にすらならない悲痛な叫び。 [*前] | [次#] TOP |