最期まで 数日後、篝火は街で買い物をしているとき、目の前からは見なれた顔――第一の街支配者榴華と柚霧がやってくる。 「朔夜の調子はどうだ?」 普段の独特な口調ではなく、真面目な――素の口調で榴華は朔夜を気遣う。普段は不真面目でおちゃらけた榴華だが、状況を読むことはでき、態度を使い分けることも出来る。 「まだだ。数日何も食べていないし、まともに寝てもいない」 「そうか……。篝火は平気なのか?」 「落ち込んでなんていられないだろう。朔夜があんな調子なのに俺までそんな調子になるわけにはいかないよ」 「健気だな……」 斎と烙、そして由蘭が死んでいた事を伝えた時、朔夜は雛罌粟の自宅前で崩れ落ちた。力なく地面に座り込む。瞳から涙があふれ出す。失ったものはもう二度と戻って来ない。 斎とくだらない言い争いをして喧嘩することも出来ない、郁の食べられたものじゃない料理を食べされられることもない、皆で一緒に夕日を見ることも出来ない。 斎と烙が仲良く笑いあっている姿を見ることも叶わない。 何もない。 再び一緒に笑うことすらできない。 第一の街へ辛うじて朔夜を連れ戻った後も、朔夜はふせ、自室に籠る。殆ど自室から出てくることはない。篝火がご飯を出しても、一口も食べない。 「今日の……ご飯は食べていただけるといいですね」 柚霧が労わる。柚霧にとって精一杯の気遣い。 篝火もそれをわかっているから、優しく微笑む。何処かそこに歪さを感じさせながらも。 「あぁ、今日はお粥か雑炊でも作ろうと思っている、朔夜が食べやすいようにな。本当に……これ以上何も食べなかったから身体を壊す」 「栄養満点がいいですね」 「あぁ」 今日こそは食べなくても無理やり食べさせよう篝火はそう思う。 朔夜は日に日に弱っていく。 無理矢理にでも食べさせて、栄養をつける必要があると判断した。 白き断罪が罪人の牢獄からいなくなっても、失ったものは戻らないし、元には戻らない。 [*前] | [次#] TOP |