零の旋律 | ナノ

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 白圭は言葉を発することもしないで、ただ深く何度も何度も頷いた。目頭が熱い。

「僕らは同じ、国に裏切られた者同士。復讐をしよう」

 涙腺が緩む

「同志よ」

 いつの間にか伸ばされた手を白圭は取った。
 普段の冷静な白圭であれば、何故、天才軍師が現れたのか原因や理由を求めただろうが、今の白圭には疑問を覚える余裕はない。
 ただ、誰かに自分のことが認められた気がして、ただ、誰かに目的を与えられた気がして、心が落ち着いた。復讐しよう、白圭は決意する。
 だが、それと同時に踏みきれない想いが生まれる。それは愛国心。
 憎んでも、復讐したくても、愛国心だけは心の中に根強く残った。
 国を愛していたから、国に裏切られたと知り絶望した
 国を愛していたから、国に仕えた

 この想いを隠したままいるわけにはいかない、と水波に素直な気持ちを正直に伝える。
 あの場に留まるのは危険だと、場所は移動した。水波の自宅だ。水波の自宅は余計なものが置いておらず、質素な部屋。まるで、すぐに自分が住んでいた痕跡を消すことが可能のように。
 白圭の手には、水波に渡された温かいココアがある。冷え切った心が温まるようだった。
 例え、全て水波の作戦通りに動かされていても構わないと思える程に、水波を信頼してしまっていた。
 白圭の気持ちに、水波は特に驚くこともしないで、ただ微妙した。

「それが当然の想いだよ。別に変なことではない。復讐も愛情もあるのはよくあることだよ。愛は憎悪の始めとも言うでしょ」

 さも当然のように水波は答える

「僕だって愛国心はあるよ。あるからこそ復讐をするんだ。まぁ、国を滅ぼしたいとか、そんな大層な想いは抱いていないよ。ただ、更生させたいんだ」

 水波の言葉が、本心かどうか、真実か虚偽か、誰にもわからない。
 けれど白圭はその言葉に納得した。
 愛国心があるから、全てに復讐することを躊躇した。国に絶望したからといって国を捨てる事が出来なかった。結果、罪人を憎んだ、恨んだ。
 水波は白圭の想いを全て読みとっていた。


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