零の旋律 | ナノ

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 白圭は倒れたまま動けない。心も身体も全て限界を迎えていた。
 瞳から溢れる涙は、砂に水を与え、色が僅かに変わる。
 無音の世界で白圭はただ死を待つのみ。白圭が思うは、仲間の最後にあった姿ばか
り。

「だ、だが……何れ、何れ――」

 最後に呟こうとしたものは何か。


 時は五年前に遡る。
 白圭は血だまりの中にいた。
 大きな怪我を負い、地面に横たわる。荒い呼吸を整えようと深呼吸を繰り返す。

「はぁ。はぁ……」

 愛する妻と子を殺されてから白圭は無断で白き断罪から姿を消した。
 何もしないではいられなかった。何かをせずにはいられなかった。
 その結果がこれだった。白圭の周りに横たわるの犯罪者たち。犯罪者は生かして捕まえるのが基本であった。しかし例外は存在する。その例外を白圭は適用し、犯罪者を殺した。
 例外とは、殺しても仕方ないと思える場合――正当防衛を含めだが、その場合は犯罪者を殺しても軍人が罪に問われる事はない。
 自身がボロボロになりながらも、犯罪者を生かすことはしなかった。刃を振るい殺す。
 生かして捕まえた所で、犯罪者は罪人の牢獄に送られる。ただ、それだけ。それ以上の事は誰もしない。
 罪人の牢獄で、一部の犯罪者たちが生きていることを白圭は知ってしまった。
 事実を知る理由は妻や子を殺した犯罪者は現在どうなっているのか、気になったからだ。
 その犯罪者は罪人の牢獄に送られただけだった。その事実に白圭は愕然とした。
 信じていたものが裏切られた気持ちになる。

 ――何故、罪を犯し、被害者を傷つけたのに罪人の牢獄へ送られるだけなのだ。
 ――そんなことあってたまるものか、私は許さない。

 白圭の中に一つの感情が芽生える。やり場のない怒りが心を支配していく感覚。あがらうことなく、支配されていく。

 ――腐っている……!!


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