零の旋律 | ナノ

V


「罪人の牢獄っ……支配者!!」

 その言葉に、罪人の牢獄支配者――銀髪は二コリと微笑む。

「一つ教えてあげる……というか実感しているだろうけど、この罪人の牢獄を滅ぼすなんて狭匙で腹を切るようなもんだよ」
「……」

 白圭は何も言えない。唇を強く噛みしめる。

「だけど、此処まで壊してくれたんだ。……これが君への最大のお礼と最高の侮蔑だよ」

 銀髪は白圭の髪を強く掴み顔を引き寄せる。

「この牢獄でもっとも『人』らしい梓の手によって殺された絶望を味わないな」

 ――罪人だと一見は思えないような人達には君は殺させない。
 ――君を殺すのは、梓さ、それが君への一番の最悪のお礼さ

「ふ……」
「清狂の奴らではなく、狂気その者である梓にね。最高だろ? 君の目的は達成出来ることなく朽ち果てていく。この奈落の土地で」
「な、何をくだらないことを……一番、狂っているのはお前だろう……」
「……そうかもね。だけど俺は君を殺しはしないよ。君を殺したのは梓」
「ふ、ふざけっ」
「君は俺に辿り着くことが出来なかった。君のやったことは政府に何の影響を及ぼすことはない。君のやろうとしたことは雲に梯をかけるようなもの」

 銀髪は今にも息絶えそうな白圭の肉体に止めを刺すことはしない。
 けれど、白圭に語りかけていく。白圭の心を抉る刃として、精神の止めを刺していく。

「君が何をしたって政府にとっては関係のないこと。君の目的は達成することも出来ず、そして仲間を道連れにして死ぬだけ。図り違えたね、この罪人の牢獄の実力を」
「ああぁぁぁあぁぁぁぁあああ!!」

 白圭は最期の力を振り絞り銀髪を殺そうと動く。
 左手で隣にある大剣と取り、身体を無理やり起こす。あちらこちらが悲鳴を上げたが今の白圭にはそんなことは関係なかった。身体から血が吹き出そうとも、激痛が身体を突き抜けようとも
 最後の力を振り絞り大剣を銀髪の心臓部に刺す
 銀髪は一切避けない。さらなる絶望を与えるためだ。
 ニヤリ、そう顔を歪める。
 大剣を銀髪にさした白圭はその場に再び倒れる。衝撃で砂が舞う。

「満足?」

 銀髪は微笑む。憫笑する。
 ――この程度で死ねるなら、俺はとうにこの世にはいないよ。

「何故、あの時も……あのっどぎもっ……き、貴様はしなだい」
「もうすぐ君は死にそうだね。でも俺は死なないよ。……俺はどんなことをされても死ぬことはない。心臓を刺されても死ねない。だから君たちが俺に敵うことはない。最初から不可能なことなんだよ。この牢獄を滅ぼすことは。ましてや……君程度では。高望みしすぎだよ」

 銀髪は心臓部に突き刺さった大剣を抜き去る。
 身体には大きな傷跡と血が流れるが、それも束の間のこと、傷は全て消え去る。何もなかったかのように。破れた服までも元通りになる。
 白圭が攻撃したあどは何処にもない。

「ね?」

 白圭に微笑みかける。それは侮蔑侮辱憐憫様々なものが交じった笑みを。

「あははあああぁぁぁぁ」

 白圭は絶叫する、知らず知らずのうちに涙があふれる。

「ううぅ……」
「あはははははっさようなら、悲しき隊長さん」

 銀髪は最期まで白圭を見ることはなく、途中で立ち去る。
 白圭は拳を強く地面に叩きつける。砂が白圭の周りを舞、白圭に被さる。

「一人寂しくさようなら。僅かな残り灯楽しむといいよ」

 白圭に背を向けながら、銀髪は白圭に向けて手を振った。


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