U 立っているのが、歩いているのが生きているのが不思議なその状態でもなお大剣を梓に振りかざそうとする。 ――私は倒れるわけにはいかない……!! 「きゃははははは」 だが、大剣が梓を貫くことはなかった。 「ぐはっ……がっ」 梓が動いた。白圭が大剣を振りかざす前に、梓は白圭を愛しく抱きしめるような距離で、袖口から短剣を取りだす。梓が蔓以外で扱う武器。白銀の刃が歪んだ梓の顔を映し出す。そして躊躇することなく、腹部を突き刺す 「きゃははははっ」 梓は笑う。短剣を抜きとり付着した血を舐める。 「あははははっ、きゃはははっ」 梓は笑う。 梓は踊る。 梓は舞う。 白圭は力なく地面に倒れた。 悔しさと深い絶望をその身に感じながら。 「きゃはははっ、ごちそーさま」 梓はその言葉を最後に白圭から背を向けて歩き出す。 「まっ……」 ――待て! 叫ぼうとしたが言葉にならない。白圭は戦おうと、勝とうと、殺そうと懸命に身体を動かそうとするが、身体は動かない。 激痛が辛うじて意識を繋ぎとめてくれるだけ。油断すれが意識を失いそうになる。眼が霞む。 ――此処で、死ぬのか…… 意識が朦朧とする。 その時、銀色の風が舞い、一人の人物が現れる。梓ではない。白圭の霞む視界では梓が何処にいるか捕えることも出来ない。 しかし、その人物は霞むゆく視界の中でもはっきりと映った。何故なら、自分の姿を見えるよう、白圭の前でしゃがんで視界を合わせているのだから。 [*前] | [次#] TOP |