T 「ざーんねんでしたぁ。この子たちは砕かれても、斬られても自らの意思を持ち、増殖してくれるのよぉ。きゃは」 クルリと一回転して、華麗にポーズを決める。 それと同時に白圭の右手首に突き刺さっていた蔓は貫通し抜けていく。 白圭の右手首には穴があき、大量の血が溢れだす。白圭は左手で服の一部を無理矢理ちぎり、止血する。 しかし、白い服は一瞬で真っ赤に染まる。 「きゃはははっ」 右手が使えなくなった以降状況は逆転した。否、元々白圭が有利だったわけではない。 白圭は右利きだ。両手でも大剣を扱う事があるとはいえ、左手だけで大剣を持つことは出来るが、普段のように剣を扱えない。 左手だけで白圭は無数に襲いかかってくる蔓を相手にしなければならなかった。 「ならばっ……!!」 白圭はすぐに自分を守ることをやめた。交わさなければ致命傷に繋がる攻撃だけを防ぎ、それ以外の攻撃は交わさない。切り刻まれようが貫かれようが、前へ前へ進んだ。 白圭が進むたび、周囲に血だまりを作っていく。 梓はそれを愛おしそうに眺め、白圭の行動に拍手する。 「すごーいわねぇ。自らの身体を犠牲にしてまで、私を殺そうとするなんて中々出来ないわよぉ」 笑み以外の表情を知らないのではと思える程、梓から笑みが途絶えることはない。 無邪気で狂気の笑顔。 彼女は罪人の牢獄にいるからなのか、それとも最初からそうだったのか白圭には判断がつかない。 だが、白圭は突き進む。出血のしすぎで、目が霞んでくる。 無数の傷をつけられ、足取りが覚束なく、今にも倒れそうだとしても――地面に足をつけ、進む。 確実に梓との距離を縮めていく。梓は逃げない。 そして梓に辿り着いた。 「貴様だけは倒す……!」 罪人の牢獄に影響を受け、彼女が狂ってしまったのだとしても、元々だとしても。 白圭はこの、最果ての街支配者を殺さなければならないと直感した。 この人物は危険すぎる。いつか国に害なす存在。 彼女と出会ってしまったことで他の罪人達がいかに普通だったかを知らされる。 罪人の牢獄の中でも、他の追随を許さない程異色で、異様で異常な存在。 左手で精一杯大剣を振りかざす。梓を守る蔓たちは、白圭に斬り裂かれても尚、梓を守ろうと、白圭の身体を後ろから無数に突き刺す。 「ぐっ……」 それでも白圭は倒れない。 [*前] | [次#] TOP |