零の旋律 | ナノ

第六話:白蓮の


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 最果ての街入口
 白圭は大剣を片手に一歩一歩踏みしめるように進む。

「きゃはははっ、此処まで来てしまったのねぇ」

 他者を見下すような笑いが響く。侮蔑憐憫を含めたような独特な笑い声。顔を顰め、白圭は前を見据える。

「お前は?」

 白圭の元にゆったりとした独特の歩幅で歩いて近づいてくる二十前後の女性。
 紫紺の髪と瞳。瞳は髪よりやや濃い。黒とピンクで彩られた服装。髪には薄いピンクの花飾りをつけている。髪はみつあみに纏め、それを左から右に流すように上で留めている。

「私は梓。最果ての街支配者だよぉ。白き断罪のたいちょーさん」
「こんな女性まで……」
「あらぁ、男尊女卑は好まないわよぉ?」
「そういった意味ではない」
「でしょうねぇ」

 マイペースの、間延びした口調で梓は話す。
 それを白圭は余裕と受け取り、緊張を緩めない。どんな経緯で彼女が最果ての街支配者になったかは知らないが、最果ての街は一番の危険分子が集まる場所を支配する支配者だ。油断は禁物。彼女が普通であるはずがないと判断する。

「きゃはっ。ねぇ白き断罪のたいちょーさんは私をどうするぅ?」
「どうもこうも、敵なら排除するのみだろ」
「あはっ、素敵ねぇ。私も貴方の血をみたいわ。真っ赤に染まり美しく輝くそれを」

 梓はクルリと回転する。両手を広げて楽しそうに笑いながら。
 無邪気な子供のように、しかし見る者を後ずさりさせるような、狂気を含んでいる。

「……狂っている」

 白圭の口から自然と零れた言葉。敵を眼前にしながら、梓の言動が信じられなかった。梓の余裕だけではない、恐らく梓は誰を敵に回しても、誰が目の前にいても同じ言動を取る、白圭は直感で理解した。
 両手で大剣をしっかりと握りしめ、地を踏みしめて斬りかかる。
 だが、梓まで攻撃は届かない。突如地面から突き破ってあらわれた無数の蔓によって止められたのだ。

「なんだこれは」
「きゃははっ。これは私を守ってくれるのぉ」

 笑う笑う、無邪気に不気味に笑う。毒も何もない純粋で歪んだ笑い。

「ふざけるな!!」

 白圭は梓を守るために続々現れた蔓を片っ端から斬り落として突き進む。蔓も白圭に向かって攻撃を繰り出すが、俊敏な動きで交わしながら斬り落とす。白圭の腕前の前では蔓の攻撃は意味をなさなかった。
 一歩一歩確実に梓の元まで近づいていく。
 けれど、梓は同様しない。無邪気な笑みを一向に崩す様子もない。

 ――何がおかしい、何がおかしいそんなに

 梓の笑いが不気味で仕方がなかった。それでも白圭は突き進む。譲れない思いの為に。

「!?」

 激痛が走ると同時に、白圭の手から大剣が抜け落ちる。何が起きた、と白圭が右手首をみる。右手首には蔓の破片が突き刺さっていた。白圭が斬り落とした蔓だ。
 斬り落とした先から新たな意思が芽生えたように、蔓は右手首を貫いた。
 右手首から血は滴らない。蔓が突き刺さると同時に止血の役目も果たしていた。蔓を手首から抜き取った瞬間、血は勢いよく溢れだすだろう。激痛に苦悶の表情を浮かべながら懸命に耐える。
 右手は動かない、動かそうとしても、痛みが全身を突き抜けるだけ。


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