零の旋律 | ナノ

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 戦線離脱した悧智と砌は真っ先に悠真の元へ向かう。
 悠真が無事ならば、いるはずのその場所に。悠真はいた。けれど――無事な悠真の姿ではなく、無残に殺された悠真の姿だった。

「悠真!!」

 慌てて悧智は悠真へ駆け寄る。一緒にいる砌は両手に柚葉と舞を担いでいる。腰にはメイスを二対ぶら下げている。何処にそんな力があるのか、問いたくなる光景だった。

「悠真っ……くそっ俺のせいか」

 悠真の身体を抱きしめる。血で服が赤く染まる。

「少なくとも、想定外の事が起きたことは認める必要があるでしょうね」

 砌は全く取り乱すことなく、冷静だ。

「くっ……ふざけるなっ」

 砌は冷静さを崩すことはなかったが、内心で一見すると冷酷無慈悲に見える悧智が、仲間の死に悲しみと憤りを感じていることに驚いていた。
 砌のイメージでは、悧智は仲間すら平然と切り捨てていた。そのイメージは覆った。

「どうするの、悧智」
「……引き上げる」
「そう、だけど引き上げる当てはあるのかしら? 基本的に罪人の牢獄は入ることは可能だけど脱出は不可能なはずよ?」
「大丈夫だ、手は打ってきてある。俺を誰だと思っている、甘く見るな。俺の自室に術を予め繋げてきてある、俺が術を使えば脱出できる」
「そう、抜け目ないのね」
「あたり前だ。じゃなければ最初から罪人の牢獄まで白圭を追ったりはしない」
「そうね」

 転移系統の術は、魔術の中でも高度な部類に入る。使える人間は一握りだ。
 しかし、悧智の腕前を持ってすれば、転移系の術を扱うことも可能だ。特に、移動先地点を術で予め繋げておけばなおさらのこと。

「脱出が可能で良かったわ。この場で死ぬのは御免だからね」
「……白圭たちはどうなる」
「どうしたいのかしら?」

 質問に質問で砌は返す。悧智がこの場にいる限り、いつでも罪人の牢獄から脱出することは可能だ。
 だが、それ以外の仲間は脱出できるとは限らない。現在の白き断罪に悧智ほどの術者はいない。
 由蘭も術に長けているが、由蘭と悧智では扱う術の系統が違う。由蘭は物質の増量と使役系術を得意とし、悧智は移動や攻撃系の術を得意としていた。その差はでかい。

「……白圭たちに戻る術はあるのか?」

 さらに質問で返す。

「さぁ、私は何とも。でも、白圭が何も考えていないわけではないはずよ」
「何故だ」
「仲間想いの白圭が、何の考えもなしに、道ずれにするためにこの牢獄に来るわけないじゃない」

 予想でしかない言葉だが、確信的で断定した言葉だった。
 白圭は仲間からの信頼も厚く、白圭も非常に仲間想いな性格をしている。
 だから、白圭の元には自然と人が集まってくる。
 その白圭が自分と一緒に死のうというはずがないと、何処かに帰り道の道筋は残しているはず。
 但し、この地へ連れてくること自体が、死の可能性に直面していることは白圭も承知の上だ。
 悧智も承知でこの地へやってきた。
 罪人の牢獄が危険だとわかった上で、達成したい想いがあった。様々な矛盾を抱えたまま。
 複雑に絡み合った思考の元、矛盾が沢山あると知りながらも、それでもこの地にやってきた。

「……暫くまっても何も音沙汰がないようなら、帰るぞ」
「わかったわ」

 全てが上手くいくとは微塵も思っていない。現に悧智たちは負けた。
 それでも行動せずにはいられない想いがある。例え復讐だとしても。

「(それにしても……夢華は一体どこに消えたのかしら)」

 ゆっくりと崩れた歯車は修正しようと活動を始める。
 大空に飛び立つことのできない鳥かごの中で足掻く。


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