零の旋律 | ナノ

V


 柚葉を殺し、裏切った律の作戦に何時までも加担する必要はない。悠真の安否を確かめる必要がある。

「お前……実はいい女だな」
「実は、は余計よ。それに褒めてもなにもないわよ」
「少し下がっていろ」
「わかったわ」

 会話内容が逃走を示唆するものだ、と判断した篝火と朔夜、雛罌粟は脱がすかとすかさず臨戦体形になる。

「誰か逃がすか!」
「金髪頭か。逃げるさ、だが、覚えておくんだな、俺はお前たちを滅ぼしたやる」
「待て!」

 篝火は走ったが、僅かな距離が仇となる。否、元々悧智は自身が術を安全に使える距離まで距離をとっていた。悧智の周囲は煙幕状の煙が辺りを覆い、視界を見えなくする。そのまま粒子状の光が辺りに霧散した。

「どいておれ」

 雛罌粟が風属性の術を唱え、当たりの煙幕を払う。
 視界が再び見えるようになったときには、白き断罪は誰一人として残っていなかった。舞も柚葉も。

「くそっ」

 篝火は砂の地面を叩く。衝撃で砂はへこむが、砂はすぐに元に戻っていく。
 まるで多少の衝撃では、何も変わらない事を示すように。

「逃したかっ」

 雛罌粟は悔しそうしながらも体力の限界だった。身体から力が抜けるように倒れかける。
 それを朔夜がギリギリの所で受け止める。予想より細い肩にどうすれば、あのような体術を使えるのか思わず考えてしまう。

「我もこの姿でいるのは限界だ……」

 雛罌粟の周りを光が包み込み、次に姿を現した雛罌粟はいつも通りの幼い少女の姿をしていた。

「(普通……おばあちゃん姿になるんじゃねぇのかよ)」

 休んでいる時間はないが、心身ともに疲労しきり、動けなかった。
 朔夜はその場に座りこむ。
 その様子を蘭舞と凛舞は複雑な表情をして見ていた。


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