零の旋律 | ナノ

Y


 最果ての街を出て、螺旋階段に辿りつこうとする時、一人の女性が立っていた。
 最初から此処に誰かが来るのを分かって待ち伏せをしていた。
 紫紺の瞳が律と焔を真っ直ぐ捕える。

「最果ての街支配者梓、やっぱりいたか」

 最果ての街支配者梓、銀髪が唯一手元に置いている存在。
 普段と変わらず狂気めいた瞳と、孤を描き笑みを浮かべる。

「きゃは、やっぱりきたのねぇ」
「やっぱり、きたのねぇ」
「銀色に言われたのか?」
「まぁ、そんなとこかしらねぇ……でも、もう全て遅いのだけれどもねぇ」
「?」

 律と焔は首を傾げる。梓が何を言っているのか理解出来ない。

「まぁいいわぁ。……通りたければ通りなさい」
「どういうことだ」

 律の予想と、梓の行動は余りにもかけ離れていた。
 律は梓との一戦を覚悟していた。最果ての街支配者梓、その実力を律は知っている。
 実際に交戦した事はないに等しかったとしても。その異様さを知っている。
 最悪、罪人の牢獄支配者と戦う事も考えていた。そうなれば律一人では厳しかった。
 もっと、銀髪にあの時呼ばれた呼び名『死霊使い』として戦えば人手不足になることはない。
 それでも、律は焔を仲間に加える作戦をたてた。例え、罪人の牢獄を律一人で切り抜けられたとしても、後々仲間として利用するために。焔を誘えば、律の誘いにのる確信があった。だから、焔を生かす作戦を考えた。
 他の誰かを生かそうとは考えずに。

「通らないのぉ?」
「何故通す?」

 梓が、自分たちに斬りかかってくる様子は一切ない。
 通ろうとすれば梓は何もせず、律と焔が立ち去るのを認めるだろう。

「それがぁ、あれの目的だからよぉ」
「銀色に従うか」
「きゃははははっ、愚問ねぇそんなことあはははっきゃははは」

 廻る廻る廻る。

「……」

 梓の言動が奇異で理解出来ない眼差しを焔は送る。
 その視線に梓は気が付き、廻るのをやめる。

「普通であろうとすることが、一番狂っているのよぉ」
「!?」
「人は個性だなんていって、個であることを主張し、誰かの代用品であることを嫌う。けれどねぇ、人は人と違うとは思いたくないと思い。人と同じであろうとする。それこそ、一番狂っているのじゃないかしらぁ?」

 焔は何も言わない。

「個でありたいと願い主張するくせに、普通という枠からはみ出すことを恐れる……他人から迫害されるのを恐れるのよぉでも、そんなことに何か意味があるのかしらぁ?」

 人は自分の個性を大切にしたいといい、その一方で人との違いを恐れるのなら、矛盾
 ならば――いっそのこと


- 324 -


[*前] | [次#]

TOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -