X 律と焔は榴華に遭遇しないよう、慎重に進みながら最果ての街に辿り着く。 最果ての街を通らずして螺旋階段に辿り着くことは出来ない。 白を纏った律と焔は異様に目立つ存在だろう。だが、最果ての街は異様に静かだった。 それが不気味さを醸し出す。閑散とした雰囲気は廃墟を思わせる。 最も、最果ての街は他の街と違い、あちらこちらに崩壊した建物が目立つのだが。 「……なんだ、ここは」 他の街とは明らかに違う異様な空気に、焔は寒気を覚える。 それと同時に、乱戦になる覚悟をして最果ての街に赴いたのに、人っ子一人いない現状に焔は怪訝な顔をする。 「……ちっ。銀色め、俺が最初から此処に来ると知っていたか」 一方、律はこの場所が閑散としている理由に気がついたのか、苦々しく顔を顰めた。 「銀色?」 銀色という単語を聞くのは初めてではなかった。助けられたあの時も銀色と律は言っていた。 それが誰を指すのか見当がつかなかった。 「あぁ。罪人の牢獄の支配者のことだよ」 「まて、聞いた話しだと、罪人の牢獄支配者は銀髪って呼ばれているんじゃなかったか?」 罪人の牢獄の支配者。通称銀髪。彼の性格ゆえか、周りが誰も名前で呼ばないからか、いつの間にか彼に染みついた呼び名が銀髪。けれど、律は銀髪ではなく銀色と呼んだ。確かに髪の毛は銀髪で、色は銀色。 その差は殆どないが、ここでは小さな差異はここでは大きな差異となる。 「……まぁ色々あるんだ」 「誤魔化すな。銀髪と銀色じゃ違う。全て、とは言わないがある程度は俺も情報を頂かないと困る」 同盟を組んだ以上、その関係は対等であり、一方的な関係ではない。 「ある特定の奴ら……まぁ、罪人の牢獄支配者を、この地に来てからではなく、最初から知っていた一部のものたちは銀髪ではなく、銀色と呼ぶんだよ」 「つまり、お前は最初から罪人の牢獄の実態を知っていたってことか。……ん? いや待ておかしいだろ。白圭たちだって知っていたはずだ」 「流石、焔。頭の回転が速いな。最初に云っただろう? ある特定の奴らって」 「その特定とはなんだ」 「白銀一族と関わりを持つ者たち」 「!?」 焔は驚愕する。白銀一族とは、知っている者は知って畏怖するし、知らない者は首を傾げる一族の名前。 有名ではない一族、というわけではない。ただ公に出てこないだけ。 白銀一族は七大貴族と称される王家を含めた貴族の一つ。貴族でありながら、暗殺者として裏で暗躍している一族だ。普通に生活しているだけでは、白銀一族の存在を知ることはない。 けれど、裏を知っている者たちであれば、白銀一族を知らない者はいない。 「白銀一族が何故……」 「流石、白銀を知っていたか」 「それくらいあたり前だ」 「流石、元々白き断罪にずっと所属していたわけではないな。まぁ、それはおいおい話すさ。そろそろ最果ての街を出るころだ」 閑散とした最果ての街は最期まで人が姿を表すことはなかった。 その中を歩きながら、焔は律が最初から自分の過去を知っていた事を確信する。『焔』とは本名ではない。彼が白き断罪に所属する為に用意した偽名。本名で所属した時、自分の過去を調べられたら困るからだ。 [*前] | [次#] TOP |