零の旋律 | ナノ

V


「で、何をすれって俺に」
「復讐」
「……」
「俺は復讐をするためなら何だって利用する」

 自分も利用されるだけか、焔は心中で自嘲する。けれど、怒りや苛立ちは湧いてこない。
 ひょっとしたら、気がつかない振りをしていただけで、最初から律はこういった存在だと理解していたのかもしれない。

「焔、俺に力を貸せ」
「いいよ」

 利用されることを承知の上で、同意する。

「但し、利用されるだけは御免だ。利用し、利用し合う関係であるのならだけどな」
「……焔の目的も復讐か」
「あぁ、そうだよ。復讐の為なら俺だってなんだってやる」

 お互いの目的は違えど、復讐には変わりない。

「どうだ?」

 焔の提案に律は苦笑する。
 ――それでいい、それでこそ俺が選んだ復讐者

「勿論構わない。なら同盟結成だな」
「なら、まずは俺の武器を取り返したい。流石に丸腰は無理だ」
「そうだな。取り戻したらさっさと最果ての街に行く。榴華と出会って戦うのは時間の無駄で体力の無駄だ。最果ての街で梓とどうなるかがわからないしな。避けられるものなら、避けるに越したことはないが」
「わかった」

 早急に作戦を決め、実行に移す。もたついている時間はない。
 目指すは罪人の牢獄から脱出すること。

「一ついいか?」

 武器を取りもした場所で、焔は律に聞きたい事があった。
 周りには罪人達が血を流して絶命している。律が一瞬ともいえる時間で殺した。焔が手伝う出番すら存在しなかった。
 武器を一つ一つ確認しながら身につけていく。

「何だ?」
「夢華の姿を見かけない、夢華がどうしたか知っているか? 烙は……斎側についたのだろう?」

 夢華同様、烙の姿も見かけていない。しかし烙の行方には検討がついていた。
 烙と斎は親友だった。だから、烙がいなくなったのは斎側についたからだろうと判断していた。
 しかし、夢華の行方はわからない。

「……恐らくだが、夢華は悧智に殺されたよ」
「どういうことだ!?」

 悧智は第二部隊陽炎の隊長。部隊が違うといえど、同じ白き断罪の“仲間”には変わりがない。
 それなのに何故殺す。

「夢華の名前は雪月夢華。この名前に聞き覚えは?」

 烙は何処かで耳にしたことがある名前だった。必死に記憶を辿る。そして一つの答えに辿り着く。

「雅契の分家……雪月一族」
「正解。雪月家現党首、雪月夢毒(せつげつ むどく)の実の息子だ」
「それが何故、悧智が夢華を殺す理由と繋がる?」
「簡単だろ、悧智は雅契が嫌いだから。それに夢毒は雪月の中でもかなりあくどい。犯罪行為にも結構手を出している、勿論、全てもみ消しているからな」

 至極簡単に答える。理由など簡単で十分。複雑な理由の最後にあるのはわかりやすい理由。

「雅契が嫌いで仕方ないのだろ、それだけでなく夢毒は影の犯罪者だ。だからこそ夢華を殺した」
「それだけの理由で?」
「それだけの理由だ。理由なんてそんなもんだろ? 皆勝手に複雑な理由を作りたがるだけだ。理由の背後にあるのは簡単な動機でしかない。お前だって彼女が殺されたから、殺した相手に復讐する。それだけの理由だろ?」
「……あぁ」

 結局複雑な感情が絡み合ったとしても、最終的な理由は根本にあるのか。


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