U 「……何故、助ける?」 立ちあがると同時に、縄が地面に落下する。手首を縄が圧迫していたため、うっすら痕が残る。 「そりゃあ仲間だし?」 「嘘を言うな。律。お前の瞳はそんなことを語っていない」 「まぁ嘘だな。俺は罪人の牢獄を脱出しようと思っている。焔の力を借りたいと思ったから、お前を助けたに過ぎない」 嘘をやめて真実を律は語る。 「……律、一つ聞いていいか」 「何だ」 「俺が一人で第一の街へ越させたのはその為だな」 焔の言葉に律は一瞬だけ目を見開く。答えはそれだけで十分だった。けれど律は語る。 「そうだよ。榴華は不要な人殺しはしない。柚霧に手を上げたらまぁ殺すだろうが、お前の性格からして殺さないと踏んでいた」 「……」 「この罪人の牢獄と国を繋ぐ通路は二つある」 「二つ?」 「一つは俺たちが入ってきた、入れるが出ることは不可能といわれる入口。罪人の牢獄の入り口だ」 「もうひとつは?」 律は一呼吸置いてからやや芝居がかった口調で話す。 「最果ての街のさらに奥に、螺旋階段がある。その螺旋階段を上って行けば、罪人の牢獄の外――つまり国に出る」 「……それで俺を態々生かした目的は」 焔を生かしたのは榴華の判断ではない、律の策略だ。 律は焔だけは生かすように作戦を練った。それがどれ程残酷なことか、焔はぞっとする。 律の作戦は、白き断罪の他の仲間を見殺しにした。 「最果ての街は罪人の牢獄で、一番異色の地にして、最も危険な場所だからな。銀色や、梓が住んでいる。一筋縄ではいかないだろうから、人手が欲しかった。そうなると、一番都合がいいのが焔だったからだ」 偶々、偶然。焔が一番扱うのに丁度良かった、だから生かされただけだと。 しかし、不思議と怒りは湧きあがらない。理不尽で残酷な事を、平然と――残酷だとも思わず語る律に対して、怒りはなかった。それを焔自身不思議に思う。 「それだけじゃないけどな」 「とは?」 「俺は国に戻ってやるべきことがある。それを焔に手伝ってほしい」 「罪を犯せと?」 具体的な内容を示されたわけではない、けれど律の纏う雰囲気から真っ当な手伝いではない事が推測出来た。 「よくわかったな」 「その、残虐非道の雰囲気を見ていりゃ、嫌でもわかるっての」 「……」 律は帽子を再び被る。 「まぁ、その帽子があったほうが、まだ愛嬌があるか」 「いや、愛嬌はいらねぇよ」 ピンク帽子を被っただけで、律の雰囲気が和らいだように見えた。 [*前] | [次#] TOP |