零の旋律 | ナノ

第四話:死霊使いが語る事実


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 第一の街。辛うじて崩壊するのを免れていた建物の中に焔はいた。
 武器は全て取り上げられ、身体には脱出できないように何重にも縄を巻かれている。
 自力で脱出することは不可能だろう。
 さらに、建物の外には、榴華の部下が数名武器を構えて見張りをしている。
 仮に縄を外したところで武器一つ所持していない焔では数人を相手にするのは厳しかった。
 榴華も榴華で罪人たちの中で実力があるものを見張りにつけている。

「……やっぱ性格悪いだろ」

 焔は少し前の出来事を思い出す。


「自分は一体何の恨みがあってここにきたん」

 地面に倒れ伏した焔を逃げないように、榴華が上に乗っている。
 武器は焔の手の届かない場所へ投げ捨てられ、榴華が上にいては取りに行くことは不可能だった。
 荒い呼吸を整えながら、全力であたっても榴華に勝てなかった事実を改めて実感する。
 ――何者だよ……こいつ

「自分は一体何の恨みがあってここにきたんだ?」

 素の口調に戻し、榴華は再度問う。

「……俺の最愛の人が殺された。だから俺も殺そうとしたそれだけだよ」
「復讐の連鎖か」
「あぁ、そうだよ。何故わかった?」
「なんとなくよん」

 榴華の口調が戻る。どちらが素の榴華か、考えるまでもなく焔にはわかった。

「道化が。……殺せよ」

 榴華に勝つことは出来なかった。敗北した。自身を生かしている必要性は何処にもないだろうと。

「断る」

 短く、はっきりと断言する。

「何故だ? 俺を生かしておいても何の意味もないだろう」
「自分を……お前を生かして政府に引き渡す」
「!?」

 予想外の言葉に焔は思わず首を回し榴華の顔を見る。飄々としていその真意を読み取ることは出来ない。

「罪人の牢獄で罪人を殺した生き証人ってわけだ。一人くらい必要だろ?」
「……必要ないだろ」

 榴華の言葉を焔は否定する。
 生き証人に何の意味があるというのか、何の意味もない。
 生き証人がいたってここは罪人の牢獄、その犯罪が表だって出ることはない。
 ましてや、仮に生き証人がいたところで何が変わる。何も変わらない。

「すぐ否定かよ。……俺がお前を殺さなかったのは殺生が好きじゃないからだ。そりゃあ柚を傷つけるなら俺は遠慮なく殺すけどお前は柚を狙わなかったしな」
「大分個人的理由だな。第一の街支配者としてそれはありなのかよ」
「第一の街の支配者は俺だ」

 理不尽な答えであり、それが榴華。

「はっ呆れたやつ」
「お前は政府に引き渡す。そしたらお前は罪人だ。今度は白き断罪としてではなく、罪人としてこちらにこい」
「お前さ……残酷だよ」

 殺すわけでもなく、かといって生かしているわけでもない。
 罪人を憎んだ人を、罪人とするのだから。
 目的を達成できないままに死ぬのではなく、目的を達成できず、自らが憎んだ罪人に自らもなるのだから。
 榴華の告げた言葉は酷く残酷で、無慈悲だった。

「そりゃあ、罪人だしな」
「そうか」

 焔はただ、そういっただけ。
 その表情には絶望もなければ、無念も苛立ちも嘆恨も嘆傷も感じられない。


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