U 水波の鞭が宙を舞い、烙の後に落下していく。 水波は脚の痛みに立っていることが出来ず、地面に座り込む。後ろは壁、逃げる場所はない。 「君の勝ちだ」 「そうか」 水波にはもう戦うだけの力がなかった。 そして、それは戦っていた烙にもわかる。 けれど、烙も決して無傷というわけではない、かなりの深手をあちらこちらにおい、重傷だ。 立っているのが不思議なほど、といっても決して過言ではない。 烙は刀を鞘にしまい、来た道を引き返すように走っていた。 走れば走るほどに、血は飛び散る。傷口は広がっていく、そこからさらなる血が溢れる。 けれど烙は気に留めなかった。痛みで感覚がマヒしているのだろうか、歩くのが不可能な程の激痛はやってこない。 一人、自室に取り残された水波は、壁を背もたれとして荒い息を整える。 「僕に止めを刺す時間も無駄だったのかい……いや、それだけ時間がもったいなかったのか」 ――君は長くないから 水波は目を瞑る。何かを口で口ずさむ。その旋律は酷く儚げでその声は遠くを想う歌声となる。 紅於と烙はすれ違うことはなかった。 時間的にはすれ違ってもおかしくなかったのだが、紅於は一目につかないように術で空中を移動していたためだ。そして、紅於自身も早く自室に戻りたかっために、第三の街を走っている血だらけの青年に気がつくことがなかった。 「(……もう少しっ待ってくれ)」 烙は走る。もう二度と失わないために 「あぁ……」 烙は斎の前に辿り着き倒れる。その隣には由蘭もいる。 「懐かしいな、昔もこうやって三人で昼寝したっけか……楽しかったな」 烙はもう動けなかった。 此処まで動けた方が不思議な程の深手だったのだから、当然といえば当然かもしれない。 「また、皆一緒だな」 烙はゆっくりと瞳を閉じた。 ――一緒にいよう 安らかな笑顔を浮かべ静かに動かなくなる [*前] | [次#] TOP |