T 時は少し遡る。斎が紅於を追って、この場を後にした後、烙は真っ白の刀を水波に向ける。 「君一人で僕を何とか出来るとも?」 挑発的は台詞。 「さぁな。でも相手が天才軍師様なら何とかなるんじゃねぇの? 軍師様は肉体労働より頭脳労働だろ?」 挑発的な台詞で烙は返す。 「僕も君も随分と分かりやすい挑発だよね」 「まぁな」 「でも、その挑発に乗ってあげるよ!」 水波は鞭を振るう。壁を抉るように鋭く孤を描き烙へ向かう。 鞭の攻撃は、一撃一撃が重たかったが、烙は真っ白の刀で確実に弾いていく。弾く衝撃で手が痺れるが、烙は僅かに顔を顰めただけで気にしない。 ――此処で負けるわけにはいかない 大切な親友が待っている。白き断罪である自分を受け入れてくれた仲間がいる。 その思いが、相手が例え天才軍師だろうと負ける気はしない心をらくに与える。 「はあっ!」 気合いで烙は攻撃を押しのけながら、水波の攻撃範囲外になるであろう懐まで行こうとする。 「流石、白圭の部下だね」 水波は余裕の表情を崩すことはしない。それでも着実に近づいてくる烙に脅威を覚え る。 烙の攻撃が、ではない。烙の発する気迫にだ。 「(全く……魚の水を得たものはやっかいなんだね……)」 それだけ、斎という親友の存在が大きいのか、と水波は理解する。 「(まぁ気持ちは分からなくもないよ。僕だって大切な人がいたからね)」 水波には烙の気持ちが痛い程わかった。水波にも嘗て大切な親友がいたから――だから、一度手にしたモノを失う事がどんなに恐ろしいことかもわかっている。 失ってしまえば、どれ程の虚無感が襲ってくるかも、その身を持って実感している。 けれど、だからといって水波は手を抜くことはしない。 「(僕には僕の策がある、幾つにも張り巡らされた策が……壊されるわけにはいかないんだよ。じゃないと、何の為の代価かわからないからね)」 負けられない想いの為に対峙する。 [*前] | [次#] TOP |