第参話:策士の策 崩れゆく身体は徐々に砂となり散る。 ひび割れてきた身体で紅於は水波の自宅へ向かう。 「(流石に蓄積量を超えましたか……これ以上は術を酷使するのはまずい)」 紅於は水波の自宅へ入ると、真っ先に崩れゆく身体を修復すべく、術を唱える。 赤黒い陣が幾重にも重なって紅於の足元に具現する。 徐々に砂となった身体は、修復されて、元の形へと戻る。 「(完璧に戻すのには時間がかかりますが、まぁ代理はこの程度で充分でしょう)」 紅於は水波の自室がある、地下へ向かう階段を下りていく。 階段を降り切ったところで、真っ赤に染まった水波が視界にはいる。水波は壁に背中を預け、荒い呼吸を整えている。 その姿に、一瞬呆気にとられたが、次の瞬間には僅かに笑っていた。 紅於自身気がつかない無意識のうちに。 「水波さん?」 「あぁ、紅於?」 目を瞑っていた水波は目を開き、紅於の姿を確認する。 水波の手にはボロボロになった鞭が握られている。 「負けたのですか?」 「んー引き分けってところかな? 流石白き断罪だね、予想外に強かったよ。片腕じゃあ厳しいみたいだ」 「……一体貴方は何を企んでいたのですか?」 「何だと思う?」 「答えるつもりがないのなら、それで構いませんよ」 満身創痍の水波の前に、紅於は立ち扇子を向ける。 「何の真似かな?」 「興味ないんですよ。昔の貴方だったら別だったかもしれませんけれど、今の腑抜けた貴方に興味はないのです、私に第三の街支配者の座を譲って下さい」 微笑む、紅於がではない。水波が最後に微笑んだ、紅於に向けて含笑したのだった。 「何がおかしいのですか?」 紅於は問う。しかしその返事はない。 心臓部分を大きく抉り取られたかのような後が水波に決定打を与える。 「まぁ興味はないのですけれど。私はずっと貴方を――殺したいと思っていました」 水波が答えることはない。答えられないと知って紅於は水波に語りかけるのだった。 紅於はそこで力尽きたように地面に倒れる。 「……あぁ、私の予想よりダメージが蓄積していたみたいですね」 応急処置程度に治したが、紅於の予想を上回るダメージが、呆気なく紅於の身体を崩す。 再び身体が砂のようになって砕けていくが、紅於はそれでも生きている。 「傀儡の欠点は時間がかかることですよね、暫く休まないと、もう使い物になりませんね」 紅於は自らの力が回復するまで、しばし眠りにつく。 [*前] | [次#] TOP |