零の旋律 | ナノ

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「雑魚寝でいいのか?」
「雑魚寝っても、その辺で寝るのは私と斎だけだがな」
「まぁね」

 リビングにあるテーブルと椅子を隅によけ布団を引いていく。
 泊まりに来た時用に篝火が自分の財布から出して買ったものだ。
 普段、朔夜と篝火はベッドで寝ているため、本来なら布団は必要ない。

「泉は結局来ないのかな?」
「来ないだろ。もうそろそろ起床して活動時間だろうが」
「毎回思うけど、夜に活動する情報屋ってどうなの」
「さぁ、私はよく知らん」

 そう断言する郁に篝火は

「情報屋じゃなかったのかよ」

 僅かに呆れる。

「知らん。第一情報の集め方を私はならってねぇよ」
「今度、郁と朔夜は言葉づかいを覚えたほうが絶対いいぞ」

 布団を引いていた手を休め、隣で手伝っている郁に向って話し掛ける。
 郁と朔夜の言葉使いを偶に直してやろうかと思うのであった。といっても郁は朔夜と比べて言葉づかいが悪いわけでもない。
 その時は、誰に家庭教師を頼もうかとさえ思う程に。やはりここは柚霧だろうか。
 榴華の秘書的存在である柚霧に。

「面倒だ。いらん」
「そうか……ところでここで雑魚寝をしにきた斎ちゃんは?」
「斎なら、その辺にいるんじゃないのか?」

 斎の姿が見えないことに気がつき、部屋を見回すと篝火の部屋の扉を開けたまんま、斎は就寝準備をしていた。

「……ヒト様のベッドをまた占領したな」

 雑魚寝でいいからと笑顔で言っときながら、篝火が炊事や布団を出している時に、毎回斎は篝火のベッドを奪ってそうそうに寝るのだった。早寝早起きは重要だよ、とか言って。

「斎に手伝わせないからだ」
「まぁ、別に俺はたまに布団で寝るのも構わないが」
「斎だって、家じゃベッド使っていんだろが」
「まぁ、そりゃそうだ」
「斎を甘やかせすぎると大変だぞ」
「まぁ……いいさ」

 どうせ、寝る場所はあるのだから。
 朔夜は部屋に籠って一人何かをやっている。
 だから、朝起きられなくて不機嫌になるのでと思わずにはいられない篝火だった。

「流石、私らの保護者だな」
「俺はお前らの保護者じゃねぇっての」

 それは決まり文句のように、変わりゆく日常の中で使われる言葉。
 その言葉を永久に聴き続けられればいいのにと願う。


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