Y 「何が起きた」 わけがわからずに白圭は困惑する。斎の両腕を握り締めながら、身体を起こす。 「あはははっ! 馬鹿みたいですね。そんな男を庇うために自らが死ぬなんて」 冷笑と侮蔑と共に砂が舞う。竜巻が一瞬だけおこり霧散する。 眼前に現れたる人物は少年。由蘭と同程度に見える。 赤毛はおかっぱで切りそろえられ、目の周りには特徴的な黒いメイクまたは刺青が施されている。 赤の和服に身を包んだ少年は口元を歪める。 「なんだお前は……?」 「馬鹿ですね貴方は。結局何も理解することが出来なかったのですから」 「なんのことだ」 「感情に左右されて大切なことを見失う」 赤い少年――紅於は残酷な事実を白圭に突き付ける。告げる必要の無い言葉を敢えて告げる。 白圭を絶望の淵に追いやる為に。 「そこの少女を殺したのは、確かに斎さんかもしれませんね。けれど――斎さんはただ少女の願いをかなえただけですよ」 「なんだと?」 「私が、殺すように仕向けたんですよ」 白圭の顔がみるみる青褪めていく。この少年が嘘を言っているとは到底思えなかったからだ。含み笑いから残酷さがにじみ出ている。 「馬鹿ですよね。下手に少女の願いを叶えるから、自ら命を落とすのですよ。ほっといても少女は死んだのに」 紅於は気配を術で巧みに隠し、最初から全てを見ていた。しかし、紅於は由蘭が少女ではなく少年であることだけには最後まで気がつかなかった。 「どういうことだ!」 「さぁ。私には少女の心情なんて到底理解出来ませんけど、少女は私に負けて死ぬなんて事は嫌だったみたいですよ。……斎さんに殺して、とお願いしていましたから」 「!!」 白圭は思わず斎を握り占める力が強くなる。 「まぁ、その結果、偶然見ていた貴方が、少女を斎さんが殺したと勘違いして、斎さんを殺そうとしたんですけどもね、あぁ。結果的に斎さんは殺されましたか」 紅於は白圭に対して憫笑する。 「ま、まさか……そんなことが……」 「信じられませんか? いいえ信じたくないのですね。……斎さんは自分を殺そうとする貴方に対してまで優しさを持っていましたよね? 私が貴方を殺そうとした瞬間、私の気配を察知して――私の目的を瞬時に把握して、貴方を庇ったんですから。馬鹿みたいです」 「う、嘘だ嘘だ」 由蘭のために由蘭を殺し、自分の為に斎は死んだのか。 「本当ですよ。思い当たる節は私よりずっと貴方の方があるんじゃないのですか? それとも――貴方の目は節穴ですか?」 「貴様!」 白圭は斎を地面に優しく置く。 斎の血にまみれた大剣を拾い上げる。それは鮮血。 [*前] | [次#] TOP |