零の旋律 | ナノ

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「――だから、白圭が俺を許せないのも知っている」

 白圭は何も言わない。斎は泣きそうなのをぐっとこらえて、涙ぐんだ声で話す。

「……だけれどさ、人は矛盾した生き物なんだよ。俺は此処にきて嫌というほど実感した。俺がどれだけ矛盾しているのか。人は簡単には切り離す事は出来ないんだよ」

 例え裏切ったとしても、心の中では裏切ることは出来なかった。

「想いも言動も、行動も言葉も、全て――本心は矛盾して、複雑に絡み合っているんだね」
「わかっている、私自身も矛盾していることはわかっている。けれど、私は私にはやるべきことがある!」

 白圭は大剣を地面から抜き取り斎に向かう。

「うん。白圭の意思の強さは知っているよ。だから――」

 斎は白圭の大剣を受け止めようとはしなかった。否、出来なかった。
 札の乱用で斎の防御手段は尽きていた。斎は札を使わずとも結界術を張る事は出来る。しかし、札を介さなければ詠唱が必要だった。白圭の攻撃を受け止める結界を、一瞬で作り上げることは出来なかった。それこそ、結界術を専門とする雛罌粟くらいしかいないだろう。
 防御する手段はない、それでも最後に白圭と話しがしたかった。
 ――烙
 烙の笑顔を思いだす。烙を一人にするわけにはいかない。だから斎は死ぬつもりはなかった。例え札が尽きていようとも。
 斎は白圭の攻撃を避けようとする――だが、嫌な予感が全身を駆け廻る。背筋が凍る。

「そうかっ、そういうことか! 白圭!」

 斎は白圭の身体を力いっぱい押す。

「!?」

 予想外の事に白圭はらしくもなく戸惑い、重心を崩し後ろの方に倒れる。
 衝撃が襲う。大剣は白圭の手を離れ空中を回転する。

「ごめんね……」

 斎は最期に熙笑する。頬に伝うは涙。
 白圭の手を離れた大剣が無情にも斎の肩に直撃する。
 気を失うことも出来ない程の激痛が斎を襲う。肩膝をついた斎は荒い息を整えながら

「有難う、白圭」

 言葉を振り絞る。ずっとずっと白圭に伝えたかった言葉。
 いつも伝えられなかった言葉。
 ――ごめんね……烙。篝火、朔に郁。
 心の中で呟く言葉、斎は白圭の身体の上に倒れる。
 ――結局人って矛盾だらけだよね、でも俺は矛盾ってきっと嫌いじゃないよ


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