V 「……」 斎は一度の攻撃に、数枚の札を消費し結界を作り上げる。斎の袖口の中には、攻撃用の札も仕込まれている。けれど、白圭にその札を向ける事はしなかった。 仮に攻撃しようと考えていても、斎には攻撃に移る余裕がなかった。白圭の大剣に似合わぬ素早い連続攻撃に、斎は結界を張るので手一杯だった。 だから白圭自身も斎が攻撃する気が最初からないとは気がつかなかった。 白圭自身、斎に攻撃の手段を与えないように戦っていたから。 「(やっぱり白圭は強いよ。流石俺たちの隊長)」 斎には不思議と焦りはなかった。勝つ意思がなくとも、仮に白圭に殺される未来が待っていたとしても。 心は不思議と落ち着いていた。 「俺は白圭から奪ってばかりだね」 結界で防ぎながら斎は口を開く。 自分は白圭から色々なモノを奪ってしまった。最初は白圭を自分で裏切った。全て一人で解決しようとして先走り、白き断罪の仲間を殺した。次は烙を奪った。 白圭は何も言わないが、気が付いていないはずがない。烙が姿を消して、何処に向かったか気がつかない程、白圭は鈍くない。そして――由蘭を奪った。由蘭をこの手で殺した。 他にも沢山の、数え切れないほど白圭から奪ってしまった。白圭を沢山傷つけた。 白圭だけではない、自分の行動は皆を傷つけた。 「本当に……奪うことしか、俺は出来ないんだね……」 烙を守りたくて、結局は守りたかった烙まで傷つけた。だから今度は傷つけたくなくて、別の誰かを傷つけた。 白圭に殺されれば、烙に一生消えない傷跡を心に残す事を知っていた。それでも斎は白圭を攻撃出来なかった。 白圭と烙を天平にかけたわけではない。かけるつもりもない。結論が出る事でも到底ない。 ただ、斎は―― [*前] | [次#] TOP |