零の旋律 | ナノ

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「朔夜……」

 俯いたまま口を開かない朔夜に篝火は声をかける。
 真っ黒な刀は砂の上に置かれたまま、しかし乱雑に置かれているわけではなく、刀の位置は最初とずれて二刀一緒に地面に置かれていた。まだ篝火はその刀を持つことが出来ない。心の整理がつかないのだ。

「……馬鹿だろ……死んだりして馬鹿だろ……」
「朔……」

 言葉が出てこない。なんて声をかけていいのかわからない。朔夜から零れ落ちる一滴の涙。悲しみに溢れる悲痛な表情。

「……朔。お前は第二の街へ戻って休め」

 篝火の言葉に、朔夜は伏せていた顔を上げる。

「お前まで死なれたら郁が、斎が。そして俺が悲しむだけだ」
「……馬鹿だろ、馬鹿だろ」

 朔夜は繰り返す。悲しみの涙がこれ以上流れないように、堪えようと必死になる。それでも涙は溢れてくる。留まる事をしらない。

「馬鹿だろ……っ!! 死んだら、死んだら何にもなんねぇじゃねぇかよ! もう俺と話すことも俺に笑いかけてくれることも……くだらないことで騒ぐことも何もできねぇじゃねぇかよ!!」
「……」

 篝火は黙って朔夜の言葉に耳を傾ける。

「大切な仲間なのに……勝手にいなくなるなよ」
「休め、無理に戦わなくていい」

 それが今かけられる篝火の言葉。

「いや、戦う」

 朔夜は涙を拭う。その瞳に宿る強固な意志。

「俺がここで逃げるわけにはいかない」
「……そっか」
「あぁ」

 篝火は優しく朔夜の頭を撫でる。普段の朔夜なら即刻手を振り払ったが、今は撫でるその手が心地良かった。

「だけど、篝火」
「なんだ、朔」
「この戦いが終わったら、泣く。涙が尽きるまで泣く。だから、その時は――傍にいろ」
「あぁ、勿論だ。背中でもなんでも貸してやるよ。朔が満足するまで」
「覚悟しとけ」

 後戻りをすることはしない。時が流れる以上
 前に行くしかないのなら、逃げはしない

 今出来る最大限の事をするだけ。震える脚を抑えて懸命に立ち上がる。休む選択肢は選ばない。最後まで戦う。悲しみに嘆くのはその後。


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