零の旋律 | ナノ

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 第二の街の建物屋上に白と黒はいた。
 白き断罪第二部隊陽炎の一員である悠真と、全身を黒で覆い他者を拒絶する青年、泉。

「……」

 泉は言葉を発することなく、悠真を凍てつく瞳で睨むだけ。その瞳は見たもの全てを闇に葬りさってしまいそうな程に冷たい。

「一体何ですか?」

 悠真は怪訝そうに泉を見る。初めて見た罪人。その黒さに一瞬だけ驚く。肌以外を全て黒一色で統一されている。その雰囲気に気圧されそうになる。

「……」

 悠真の問いかけに対してもなお、泉は無言だった。

「まぁ……答えるつもりがないなら、それでも構いませんよ。どうせ罪人。殺すだけで……!?」

 その声は途中で途切れる。

「いっ……ったい何をっぐぅ」

 悠真は何が起きたかわからないままに、その場に倒れる。
 悠真の身体は一気に血に染まる。血が溢れる。返り血ではない、自身から溢れだす血。

「あぁぁぁあぁぁあぁあああ」

 血を認識した後、感じたのは痛み。身体を貫くような激痛が全身を駆け廻る。
 泉が何かをしたのは悠真にとって一目瞭然であった。けれど、何をされたのかは皆目見当がつかなかった。
 いっそ気絶してしまいたい程に痛みが酷い。しかし、酷い痛みのせいで意識を失う事も出来ない。痛みに苦しめられるだけ。けれど、その痛みも何れ止む。

「あははっ……はぁ、はぁ……た、多少はっ、夢みて……たんですけども、ねっ……」

 途切れ途切れに言葉を発する。泉の耳に届いているのか、届いていないのか、悠真を見下しているだけ。

「はははっ……あぁぅ、柚葉風にいえば、魚の木に登るがごとし……なんで、しょうかね」

 ――ごめんね柚葉
 ――俺は先にいきます
 悠真は瞼を閉じる。悠真は柚葉の姿を再び見ることが叶わず、柚葉も悠真の姿を見ることが出来ずに、意識は枯れていく。
 泉はようやく口を開く。

「魚の木に登るがごとし……か。それはそうだろ。お前ら程度じゃあ、かすり傷をつけることは出来ても、致命傷を与えることは不可能だ」

 興味がないと言わんばかりに泉はその場から立ち去ろうと踵を返す。
 郁を狙撃した狙撃主は殺した。そうなると一刻も早く郁の戻るのが先決だ。
 その時、泉の傍に神妙な顔をした律が現れる。

「泉」

 名前を呼ばれただけで律が何を言おうとしているのか痛い程理解出来た。
 悲しみが、辛さが全身を突き刺すように心が痛い。

「あぁ……」

 ――全ては郁の為。けれど


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