零の旋律 | ナノ

V


 郁と泉は律にとって掛け替えのない存在。
 闇に覆われた二人と死に覆われた自分
 律にとって、唯一の友達であり親友。
 だから、律は泉と郁に害なすものは、排除する、殺す、抹殺する、葬り去る。生かしてはおかない。

「そう。でも悧智がそれで納得するのかしら?」

 砌が不意に微笑む。律はその意味をすぐに理解する。律の頭上を通り過ぎる何か。律は間一髪で避ける。

「悧智か」

 雛罌粟と相対していたはずの悧智は、気配を感じさせず律の近くまで来ていた。
 ――流石は白き断罪最強の術師
 気配を殆ど感じさせないその動きに律は感心する。

「ちぃ、外したか」
「意外や意外、悧智にも人の心はあるもんだな」

 あえて、律は悧智を煽る。

「黙りな、律。貴様何故仲間を殺す? いや愚問だな。俺はお前を殺す」

 それ以上の言葉は必要なかった。否、それ以上無駄な会話をしたくなかった。
 砌は悧智に律を譲ろうか考えていたが、その考えは特に意味をなさなかった。
 何故なら、律は何かを探るようにピンク色の帽子の中に手を入れたからだ。
 そして、その中から出てきたものにぎょっとする。

「……いつもそんな危険なものを帽子に……?」

 律がピンク帽子から取り出したもの、それは手榴弾だった。片手で安全ピンを外し、迷いなく悧智の方向に投げる。

「そんなもの俺にきくか」

 悧智は結界術であっさりと手榴弾の攻撃をはじいたが、爆炎が周囲に立ち込め煙で一時視界が悪くなる。

「ちぃ」

 風属性の術を手にまとい、手を横に流す。すると風も悧智の手の動きに合わせて流れ、あっという間に煙を追いやった。しかし、視界が戻った時、そこにはすでに律はいなかった。

「どこだ?」

 術を駆使して何処にいるか掴もうとするが、悧智の術式の範囲に律は引っかからない。
 悧智の探索系統の術にかからない。それは隠蔽系統の術を使用しているのか、それともこの付近には既に律はいないのかのどちらかだ。
 やりようのない苛立ちが悧智に湧きあがる。
 苛立っている悧智の隣に砌は並ぶ。
 篝火と朔夜は郁の手当てに追われていて二人の事など視界に入っていないだろう。
 此処で襲われれば篝火と朔夜に勝ち目はなかった。今、襲われないのは律のお蔭だった。篝火はその事実に気が付きながらも、律の事を気にしようとは考えてなかった。
今最優先すべき事柄は郁の手当てだから。
 鋭く突かれた銃弾によって郁の胸囲からは常に血が溢れている。


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