零の旋律 | ナノ

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 砌は律の眼前に接近してメイスを振るう。至近距離からの攻撃を、律は擦れ擦れの処で回避する。
 右手には拳銃を握り、隙を伺う。

「相変わらず素早しっこいのね」

 あきれた声で話す砌に、律は笑う。ピンク帽子は片手に持ったままだ。

「お褒めのお言葉光栄です。まぁ……お前のその戦闘能力の高さも褒めるべきところがあるけれどな。流石は夢毒の部下ってところか?」

 メイスを振るう速度が上がる。

「何故、貴方がそれを知っているの?」
「何も知らずに、白き断罪に身を置くと思うか?」
「……そういうこと」

 砌は冷静な表情を崩すことなく、律を品定めしていく。
 相変わらず真意を読ませない雰囲気を漂わせていたが、普段の律より邪悪さを砌は感じ取る。

「まぁ私は別に何でも構わないのだけれどもね」

 砌にとっての目的は、“あの人”から受けた命令を遂行すること。それだけだった。必要以上に他人と関わる必要は何処にも存在しない。

「砌。お前には忠告してやるよ。郁には手を出すな」

 律の言葉、砌は首を傾げる。郁とは、先刻の様子を見る限り黒服の子の名前だと判断する。
 しかし、何故律が罪人を気にかけ、柚葉を殺したのかが理解出来なかった。

「……あの子は貴方と何か関係があるのかしら?」
「さぁな」
「そういえば……先ほどの黒い彼とも顔見知りのようだったけれど」

 砌は朔夜と郁と相対していた為、律と泉の会話内容を聞いていない。けれど、周辺を見回しても真っ黒い彼は何処にもいない。死体がないということはこの場にいないということ。

「……白き断罪に入る前だよ」
「そう。まぁ人は誰しも知り合いはいるでしょうし、私にはどうでもいいことだけれど……でも、黒っていうところが気になるわ。もし私の推測が当たっているのならば、貴方は何故“黒”と関わりがあるのかしら?」
「答える必要はないだろう?」
「まぁそうね。では質問を変えるわ。何故柚葉を殺したのかしら?」
「郁を殺されたくないからに決まっているだろう?」

 泉は自分に郁を託していった。それならば、律は郁を殺そうとする者全てを殺すだけ。


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