零の旋律 | ナノ

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 それは『彼ら』にとって始めから全て予想されていたかのように、しかし『彼ら』にとって全ては予想外の事で、そして『彼ら』は世界の欠片を狭める。

「郁!? 何がどうなって(あれは……悠真か? 俺の……そういうことか)」

 律は郁が撃たれた衝撃を隠しきれない。泉も同様だ。
 誰が狙撃したか、律はすぐに理解した。白き断罪第二部隊所属の悠真(ゆうしん)だと。律の作戦では、第三の街へ赴き、由蘭たちと行動を共にするはずだった。恐らくは、白圭辺りに密かに相談を持ちかけ、何かの理由をつけ第三の街へ赴いたのだろう、律はそう判断する。
 郁が撃たれた事実を認識したくない、と心は否定しているのに反して頭はやけに冷静だった。
 悠真は本来、剣を使った戦闘と得意とする接近戦タイプ。それが幸いだったのか、郁の怪我は致命傷ではあるが、急所ではなかった。銃にしては高い威力を誇っている。悧智が威力を上げる術式でも施しているのだろう。郁の胸付近を貫いた銃弾によって、血が溢れ続けている。
 ――早く止血しなければ。
 何故、悠真が作戦に背き狙撃したのか、律はすぐに合点がいった。悧智の仕業だと。
 正体や本心を隠した自分を、悧智は信じきる事が出来ず保険の為、悧智も作戦を立てていたのだと。

「律、頼む」

 泉はそれだけを口にする。それだけで律には全てが伝わる。
 黒い闇が泉を覆う。黒は全てを包み込み、悲しみも包み込みたいように――しかし、悲しみは黒では包みきる事が出来ず、闇が溢れる。泉は宙を飛ぶように、その場から離れる。


「さてさて、そこの黒い方。死んじゃってくださーいですよ」

 柚葉と砌は朔夜と郁に近づく。目前に迫ってくる。
 朔夜が王族だということは、柚葉にも知れ渡っているのかもしれない。柚葉は朔夜のことを殺す、とは言わなかった。

「ざけんな!」

 朔夜は光属性の術を放つが、砌と柚葉は左右に避けてかわす。軽やかな動きだった。それが余計に朔夜を焦燥させる。
 篝火は僅かに遅れをとっている。柚葉は見た目と反して脚が早かった。
 長距離そうであるなら、篝火が負けることはなかった。しかし短距離の中ではそこまでの差を縮める事が叶わなかった。

「さて、花を散らしちゃいなさい」

 柚葉は槍を構える。目の前に迫る凶器。
 それでも――朔夜は郁を離さない。守るようにしっかりと抱きしめ続ける。

「へっぇ……?」

 しかし、柚葉の攻撃は郁に届くことはなかった。パン、と音が弾ける。

「何が……」

 柚葉は自らの身体をみる。それは白を染め上げる赤。
 心臓付近を貫く銃弾。

「う、裏切ったですね?」
「裏切ったのはお前らが最初だろ」

 ――傷つけるもの全て許さない。狭い世界の中で、自らの視界に映った大切な人


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