零の旋律 | ナノ

V


 ――いつもいつも消えない闇に怯えていた。
 ――でも、此処には闇を消してくれる大切な存在がいた

「え……」
「!?」

 無音の時
 全ては無音の間に行われた。
 ふかぶかと突き刺さった何か。
 それは深く深く、砂を一瞬で赤く染める。

「……」

 無言でメイスを振るう。避けることが出来ず、避けることも出来ず左肩に直撃する。
 後方に飛ばされる。それを受け止める朔夜は衝撃をころしきれず、一緒に砂の上に倒れる。

「郁!?」

 朔夜は声をかける。何があったかわからない、ただ、砌と戦っていただけ。
 打撃を得意とする砌の攻撃ではなく、明らかな狙撃。
 何処から狙ったのか、再び狙撃されるのでは、そういった考えは朔夜の中の何処にもなかった。
 ただ、朔夜の中にあるのは目の前で大量の血を流し、左肩を脱臼しているであろう郁のこと。

「郁……!!」

 篝火、泉と律がそれぞれ気が付き郁の名前を叫ぶ。
 篝火はすぐに郁の元へ駆けつけたい衝動にかられるが、柚葉がそれを許さなかった。

「駄目ですよ、敵に背を向けるべからず」

 柚葉の顔を狙った鋭い攻撃を、ギリギリの処で交わす。柚葉を無視して郁の元へ行けば、朔夜と郁を危険に晒すことになる。落ち着け、と自分を制し、柚葉と向き合う。
 しかし、予想に反して柚葉は郁の元へ向かう。

「弱ったのから倒さないと大変ですよ」

 柚葉の予想外の言葉に、篝火は慌てて郁の元へ走る。

「(無事でいてくれ……!)」

 朔夜と郁の前には砌がいる。接近戦が不得意な朔夜では郁を守りきる事は難しい。


「……さて、何だかよくわからないけど。殺しちゃってもいいのよね?」

 好機と砌は朔夜と郁に近づいていく。一歩一歩の足音が朔夜には久遠のように感じられた。朔夜は横たわる郁の身体を、何があっても離さないと強く抱きしめる。

「朔……」
「黙っていろ」

 朔夜は砌を強く睨む。


- 296 -


[*前] | [次#]

TOP


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -