U 「全く、あの子のせいで此方も中々決定打を与えられないじゃないの……」 砌は軽く呟く。朔夜の攻撃に妨害され、郁に決定打を与える事が叶わなかった。 「それに……あの子……」 砌には一つ気になる事があった。それは郁だ。郁の服装の黒。そして深紅の宝玉を知っていた事実。 「(もしも……私の推測が正しいのならば……いいえ、関係はないわね)」 砌は朔夜を傷つける気はなかった。白圭から言われていたから。朔夜は深紅の宝玉を持った正真正銘の王族であり、罪人ではない存在。罪人の烙印も押されていない。 いくら罪人と行動を共にしていても、それはこの地で生まれただけのこと。 朔夜が王族であることが事実である以上、王家か政府に白圭は引き渡す必要があると考えていた。 「あぁ。私の相手、代えてもらえば良かったかしら」 悧智辺りにでも――と。そうすれば細かい事を気にせずに戦えた。悧智なら仮に王族でも手加減も容赦もすることはないだろう。むしろやる気が寄り一層湧いていそうだ。 しかし、悧智は現在雛罌粟と絶賛交戦中だ。横目に悧智をみると、楽しそうに笑っていた。 数度だけ、悧智の戦いを砌は間近で見た事があったが、あのように楽しそうに笑う姿は今まで一度も見た事がなかった。ただ、淡々と冷酷に敵を薙ぎ払い斬り捨てる。その表情は常に無表情であった。 「余所見厳禁だ!」 悧智を見た一瞬の隙を見逃さず郁は砌へ斬りかかったが、寸前でメイスにとめられてしまう。 そのまま砌はメイスを右に払い、郁を飛ばす。 「ぐわっ……!」 郁は反動で砂に肩をぶつけたが、すぐに受け身の態勢になり着地し体制を整える。 「今のは危なかったわ」 危ないといいながらも砌は冷静だ。しかし勝負は永遠と続くことはない。 いつかは決着の時が訪れる。 +++ 「さて……俺は俺の役目を果たすだけ」 終わらせろ、終わらせろ、終わらせろと木霊となり脳内に声が響く。 「何も知らないなら、何も知らないままに終わるといい」 武器を構え照準を合わせる―― [*前] | [次#] TOP |